緊急座談会  福祉タクシー 持続するには?

三星昭宏 近畿大学名誉教授 × 関淳一 全福協最高顧問(東洋タクシー社長) × 林明 朝自動車社長

2015年6月21日付・第335号

【大阪】三星昭宏 近畿大学名誉教授、関淳一 全福協最高顧問(東洋タクシー社長)、林明 朝自動車社長は6月10日、大阪市西成区の東洋タクシー本社で「福祉タクシー 持続するには?」をテーマに座談会を行った。

―― 今後、福祉タクシーが地域に密着して持続的に運行していくにはどうしたらいいのでしょうか。関(=淳一・東洋タクシー)社長からお伺いします。

    福祉をやっているタクシー事業者がもっと組織を活用しなければいけない。今の大阪タクシー協会の幹部は市役所に行きませんね。我われがやっていたころは、頻繁に行っていた。向こうにもその気があったから、話は早くまとまった。福祉関係の委員会の後輩は、やはり行きません。大阪府にも、市にも行っていないので、自治体の情報がなかなか入ってこない。福祉タクシーは地域と向かい合わなければ、要請も何もこない。だから、必ず朝に一回、市役所に顔を出し、福祉課など担当部署と話をし、絶えずこちらから情報を発信しないと、そのうちにタクシーは忘れられてしまう。市役所に顔を出すという点では、むしろ自家用有償輸送の人たちの方が頻繁だ。それに地方の市町村会議員とよくつながっている。そこがタクシーに欠けている点です。

―― かつてタクシー業界が行っていた十八番がNPOに取られた。

    当時活動していたタクシー関係者には、すでに亡くなっている人もいますが、皆本気になって飛び回っていましたよ。毎年、年2回は家族連れで全国の自治体の状況を見て回ったりしていました。そうしたつながりがあり、「うちの地域でも、やってもらわねば」と情報を得ることができた。現在でもそうしたきっかけを作っていかないといけない。ある程度のことまでは法律で守られ、みんな小さくまとまって外へ出なくなった。そうすると情報も入ってきません。福祉をやっているタクシー事業者は、もっと積極的に動かなければ。問題が発生したら、厚生労働省の課長と話ができるくらいの関係は保たねばなりません。情報の取得と発信をつねにやらないと福祉タクシーは忘れられます。

―― 今、福祉タクシーは自治体から忘れられている状態なのですか。

    そうだと思います。地域の福祉有償輸送協議会でも、タクシー業界があまり細かなことを言うものだから、煙たい存在に思っている自治体もあります。それが蔓延化していくと元の木阿弥になる危険性があります。法律は人が活用してこそ生きるものですが、それを活用するには人が動かないと消滅していきます。

―― その象徴的な出来事が先日の第3回大阪市域交通圏タクシー準特定地域協議会だったのではないかと思います。業界内で対立があるなら、そこには関わらないでも、こちら側だけでやれますよ、という雰囲気がありました。

    国交省は権限を地方に移譲していこうとしています。自家用有償輸送は、その地域にタクシーがない場合など、タクシーの補完的役割を果たすことになっていますが、こちら側から積極的に関わらなかったら、いつまで続くか分かりません。タクシーは市民からある程度信頼される乗り物になっているので、昔ほど毛嫌いされなくなっています。ただ、人件費を除いたら粗利はほとんど残らない事業なので、補助金はある程度いただきたいというのが本音です。大阪府内では空のバスを走らせている地域がたくさんあります。そうした地域では自治体が運行補助している。その路線をデマンド型タクシーに切り替えれば、バスほどの補助金は要りません。もっとうまく利用してもらうには、我われが情報を提供してこそ実現が可能となるのです。

―― 林(=明・朝日自動車)社長はいかがですか。

    運転者という仕事に誇り持てる仕事になってきたら、若い人も入ってくると思います。大都会の真ん中では、高齢者や障害者が買い物や病院へ行くことすら困っています。福祉タクシーを保有していない会社にも自治体が補助を出して交通弱者の輸送ができるようにして、売り上げが上がらなくてもその会社の平均的賃金は保障できるという制度をつくれば、平均年齢が65歳に近づくとことは避けられると思います。採用面接でも、「介護輸送」と求人欄に書くと、30歳代、40歳代の人が来ますが、それだけで飯が食えると思っているのです。話をすると「誇りを持てると思って来たが、私に流し営業ができるだろうか」と悩んで断ってくる。当社では介護輸送は予約で行っていますから、ほぼ固定給に近いのです。ジャンボの運転者が不足して、セダンの運転者が応援に行くときには、ジャンボに支給している賃金をセダンの人にも当てはめます。堺営業所には30歳代の運転者がいますが、「働くことを誇りに思っている」と言います。狭い道でもバスとは違い、ジャンボタクシーなら通れますので、一般事業者が交通弱者の輸送を当然のように取り組めるようになれれば、と思います。

    自治体は補助金を出す金がないというなら、金の出し方を考えたらいいのです。例えば、高齢免許返上者や障害者は事業者負担で運賃を1割引にしていますが、自治体が協力して実車率を今の倍ぐらいまで密度を高める制度をつくる工夫をすれば、初乗り500円だって運行できます。そうした特区というか、特例制度をつくれるよう皆が理解して進めないといけない。例えば、(大阪府吹田市の)北千里あたりでは1日30数回輸送します。平均運賃は1200~1300円といわれています。この地域は学校が多いので、学校へ回すと、たちまちタクシーは不足してしまいます。大阪市内を流しているよりもずっ割がいい。そうした地域ではもっと工夫できるのではないかと思います。しかし、自治体は福祉バスを出したがります。大型バスが止まる路線バス停留所の横に福祉バスの停留所がありますが、これは大きな無駄です。もっと自治体がタクシーを理解して活用してもらえるような環境づくりに努力しなければなりません。

―― 三星(=昭宏・近畿大学名誉教授)先生、お願いします。

三星  我われの生活を踏まえてどう構築するかです。ドイツでは最近は交通も考慮したシビル・ミニマムを作っています。このミニマムには公共交通サービスも含まれ、その実現のために必要な税も投入されます。「限界集落」からはみ出た場合でも多様な社会資産を活用します。山奥に住むおばあさんがいると、郵便配達なども活用して病院へお連れしたりするなどです。税はもちろん、無尽蔵に投入するのではなく、議会ですり合わせをした予算の範囲で使う。自治体が公共交通計画をキチンと立てて、その中で公共交通としてのタクシーの位置付けを決めなければいけない。タクシーチケットも、今は大阪市は減らしていますが、大きな効果があります。JR大阪駅前を見ても、タクシーに市民権が与えられていません。やはり乗り場は駅正面につくらなければならない。これは大阪市の仕事です。そのようなことで、これからは市町村の役割が以前にも増して大きくなっていくと思います。

―― この座談会の模様は、次号から歴史的経緯を交えて連載していきます。


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