令和2年度第2回大阪市地域公共交通会議 AIオンデマンド社会実験実施へ
そもそも論で再び平行線 内田会長「社会実験はやることが決まっている」
地域委員がタクシー委員を「ベニスの商人」呼ばわり 数の論理で押し切る
2021年2月12日付・第510/215号
【大阪】令和2年度第2回大阪市地域公共交通会議(会長=内田敬・大阪市立大学大学院工学研究科教授)が2月12日、大阪市北区の大阪市役所会議室で開かれ、生野区、平野区A、B地域で3月30日から実施が予定されている14人乗トヨタ・ハイエースコミューターを8人乗に改造し、3地区計10両を使ったAIオンデマンド社会実験の採決が行われ、地域住民代表など賛成多数で可決された。
大阪メトロと大阪タクシー協会が協議を重ねた結果として、社会実験スタートから6月まではタクシー会社のジャパンタクシー1両がUD対応として活用される。
採決は、委員12人と生野区5人、平野区5人の地域委員により行われ、生野区案、平野A、B案に対して個別に諮られた。これらを合計すると、各案に対する母数は17人だが、全大阪個人タクシー協会の鍋谷竜一・事務局長が委任状を託さずに欠席。母数16人で採択に移った。
内田会長が挙手をせずに一括承認の形で採択しようとしたところ、黒田唯雄・大タ協常務理事が「収支計画書がない社会実験というのは理解し難い」として反対を表明したことから、内田会長は挙手による賛否を問うとして了承を求めた。今度は、後藤浩之・大阪運輸支局長が「異論がある状態での採択になるので、棄権したい。しかし、採択の結果、社会実験を行うことになれば、行政として申請は受け付ける」と表明した。
その結果、採択では、反対が坂本篤紀・日本城タクシー社長、黒田・大タ協常務理事、町野革・ワンコインタクシー協会会長、生野区地域委員の大岡理人・南タクシー社長(平野区A、B案も反対)、棄権が後藤・大阪運輸支局長、吉見明彦・大阪府警本部交通部交通管制課交通管理担当管理官、生野区地域委員の福井正次・生野署交通課交通規制係長(生野区案に対して)、平野区地域委員の大水誠治・平野署交通課交通規制係長、宮武秀美・大阪交運労協事務局長、内田会長。他の井上亮・大阪市都市交通局長、藤本和往・大阪バス協会常務理事など7人はそれぞれの案に賛成した。各案に対しては、欠席・棄権5人を除く11人中7人が賛成、4人が反対だった。欠席・棄権など態度を保留した5人を含めると、各地区委員を含めて16人中7人の賛成で出発するという異例の事態となった。議事を円滑に進める立場にある内田氏が棄権したのは、この社会実験の象徴的出来事と言える。
論議は、第1回会合に出された意見を未消化のまま進行しようとする内田会長ら、大阪市、大阪メトロ、生野区および平野区の住民代表対4人のタクシー関係者という構図で進行した。大阪メトロは、タクシー関係者の意見を、UD車両での対応や電話受付時間を午前9時開始としていたのを7時からと早めるなど、具体論では一定受け入れたが、そもそも論である事実上、タクシー排除の形で進められていることや収支計画がないまま運賃210円ありきで「ダンピング状態」が生まれることに後藤・大阪運輸支局長が何の指摘もしないなど、立て付けの甘さが随所に出た。
冒頭、記者団には頭撮りが許可されていたが、大阪市の進行役が第1回会議が流会し、2回目の会議を開くことになったなどの経緯と配付資料の確認をしたところで記者団の撮影ストップをかけた。その後、カメラがないところで、内田会長は「前会会合でまとめきれなかったのは議長である私の責任」として陳謝した。
町野委員をはじめタクシー側委員が異口同音に赤字補填の有無を追求したことに対して、大阪メトロは「赤字で進める」と回答。呼応するように大阪市は「社会実験、本運行ともに赤字が出ても補助しない」と明言した。
また、タクシー側委員の坂本篤紀・大タ協副会長が指摘した視聴覚障害者への対応について、当初、大阪メトロ側は「実証実験の計画には入っていない」と主張。住民代表の地域振興委員も「私の知人に障害者の方がいるが、その方も、実証実験を優先してほしい」と言っていた」として、大阪メトロを擁護。内田会長や後藤・大阪運輸支局長も実証実験では完全な形でのUD対応は、必ずしも取る必要はないとの意見を強調した。
さらに、住民代表が「あなたは、ベニスの商人をご存じだと思うが…」と発言したことなどから、一時論議が混乱。最終的に大坂メトロが「(視聴覚障害者への対応という)知識を持ち合わせていなかった。勉強していく」と発言したことで収拾した。
社会実験は3月30日からスタートし、第一フェーズ終了時(9月30日頃)に再度地域公共会議を開き、点検される。タクシー側の主張を受け入れ、内田会長は社会実験期間の1年を超えて同じ内容の事業は継続しないと釘を刺したが、修正を加えながら広域化を狙う大阪メトロと、再び火花が散る展開となりそうだ。
写真:令和2年度第2回大阪市地域公共交通会議の冒頭 中央でこちら向きに着席しているのが内田敬会長(大阪市立大学工学研究科教授)