優先接種 全タク連 全ト協 日バ協が国交大臣に要請
岩手 鉄道等4団体が知事要請 労働団体 足並み揃わず
米国ニューヨークではタク運転者の接種始まる

2021年2月12日付・第510/215号


【全国】全タク連の川鍋一朗会長、全日本トラック協会の坂本克己会長、日本バス協会の澤憲一会長は1月22日、赤羽一嘉・国土交通大臣を訪問し、「新型コロナウイルス感染症に係るワクチン接種についての要望書」を手渡した。

3団体が国交大臣に要望書

要望書の趣旨は「自動車運送業界は、現下のコロナ禍においても、国民の命と暮らしを守り、産業経済活動を支えるために必要なエッセンシャル事業であることの使命感をもって、日夜敢行して旅客・貨物輸送を行っている。特に、バス、タクシー事業は公共交通機関として社会に寄与する存在であり、また、トラック運送事業は災害対策基本法に基づく国の指定公共機関としての機動性を発揮し、災害時における国等からの要請に応え、緊急救援物資の輸送業務に積極的な対応を図っている。ついては、産業活動や国民生活に必要不可欠な国民の生活(くらし)と経済のライフラインを確保するためにも、旅客自動車運送事業及び貨物自動車運送事業に従事する、エッセンシャルワーカーである運転者等についても、優先的に、新型コロナウイルス感染症に係るワクチン接種が受けられるよう配慮を要望する」というもの。この要望に対し、赤羽大臣は、特定の業種に優先的にワクチン接種させるのは難しいという内容の回答をしたとされる。

エッセンシャルワーカーへの優先接種では、医療従事者に対し、2月下旬からの接種開始に向け、自治体や保健所、医療関係者がスムーズな運営ができるよう、調整が急ピッチで進んでいる。

労働団体は統一行動に照準

労働団体では、ワクチン接種後の副反応に諸説あることから、高齢者への早期接種はむしろ危険という認識が幹部間で根強くあり、全タク連のように「エッセンシャルワーカーへの優先接種要望」が統一見解として固まっていない。そうした中、連合系労働団体の交運労協ハイタク部会においても、政策要求の一つに掲げることでは一致しているが、その表現で労働団体間で足並みが揃わず、ややソフトなものになりそうだとの声も出ている。いずれにしても、初動の遅れなどから、ハイタクフォーラム統一行動として国交省、厚労省交渉が行われる3月9日まで待たなければならない。

岩手4団体独自に知事要請

岩手県の東北鉄道協会、県バス協会、県タクシー協会の3つの団体は1月27日、盛岡市の岩手県庁を訪れ、達増拓也知事に要望書を手渡し、新型コロナウイルスで打撃を受ける岩手県内の鉄道、バス、タクシーの公共交通の団体が県に支援を要望した。地域の交通を支える立場として、従業員へのワクチンの優先的な接種などを求めた。

鉄道は観光客の減少により運賃収入が大幅に減少。バス業界では、貸切バスの売り上げが全くない事業者もあるほか、タクシーも協会に所属する事業者全体の昨年1年間の売り上げが2019年の3割にとどまるなど、苦境に立たされている。

3団体は、継続的な経営支援のほか、暮らしに必要なエッセンシャルワーカーとして、ワクチンの優先的な接種も求めた。

三陸鉄道の中村一郎社長(東北鉄道協会理事)は「住民の生活に欠かすことができない事業でもある。運転手、その他含めてワクチンを優先的に接種してほしい」と要望。達増知事は「持続的な運行ができるよう、国に財政支援を要望している。県としても必要な支援を検討していきたい」との意向を示した。

この2日後の1月29日、達増知事は定例会見で、記者団からの新型コロナウイルス感染症対策に絡んだワクチン接種に関する質問に次のように答えたが、県旅客輸送事業者3団体から「エッセンシャルワーカーである運転者にワクチンを優先的に接種してほしい」という要望を踏まえた発言はなかった。

達増知事は「私から県のワクチン担当に言っているのは、早く大勢の人に接種する必要があるので、国に対して、もっとこのくらいの量を供給してほしいと、国からの供給スケジュールについて、地方の側から注文を出せるくらいに準備をし、できるだけ多くの人や場所を確保しながら、国に対してワクチン供給を早く、早くと、迫れるくらいに準備をするようにと指示をしている。早く始めるに越したことはないのだが、外国からどういう具合に入ってくるかということについて、一番、直接の情報を持っている国のほうから、そういうスケジュールが出てくるということは、やはりそう簡単にスタートできないし、またそう簡単に終わらせることができない、そういう厳しさを感じている。医療は普段から、日本全体ぎりぎりの体制でやっているし、新型コロナ対応があるので、ますます余裕がないところでワクチン接種というミッションが加わる。そこは国からの支援というものは必要だと思う」

ニューヨークはタク運転者も

一方、米国・ニューヨーク市は2月3日、新型コロナウイルスのワクチンを接種できる対象を拡大し、新たにタクシーの運転手や飲食店の従業員なども優先的に接種を受けられるようにした。ニューヨーク市では、医療従事者や65歳以上の高齢者、食料品販売店の従業員などが優先接種の対象だったが、ワクチンの供給量が増える見込みとなったことを受けて、タクシー運転手や飲食店従業員、障害者施設の関係者に対象を拡大した。デブラシオ市長は、対象者の拡大措置について「この街で重要な役割を果たしているが、感染リスクにさらされるぜい弱な立場にある」と説明している。

10日からは、新たにニューヨーク・メッツの本拠地の球場が接種の会場となった。不特定多数の人と接する機会が多いことから、2日からニューヨーク州で接種の優先対象に追加されたタクシー運転手と飲食業の従事者らが会場を訪れた。同球場に接種に訪れたタクシー運転者の男性は「とてもうれしいです。これで私も安全だ」と語った。

シンガポールは接種済み?

また、シンガポール陸上交通庁(LTA)は1月25日、都市高速鉄道(MRT)やバスの運転手など陸上交通機関の従事者に、新型コロナウイルスのワクチン接種を開始したと発表した。感染リスクが高い人に優先的に接種する政策の一環としており向こう数カ月で約8万人が接種を受ける見通しで、MRTやバス運営会社の従業員など約1万2千人に優先接種していく。

タクシーや配車サービスの運転手にも順次ワクチン接種の機会を提供する。タクシーや配車サービス業界では、隔離対象者を輸送する車両の運転手を対象に、既に優先的にワクチン接種が行われてきたという。

写真:上=岩手県の4団体が知事に陳情(1月27日)、下=米国ニューヨークで始まったタクシー運転者へのワクチン優先接種(2月4日)