大阪メトロの社会実験 公共交通会議は消化試合
1月15日再開は既定路線か 坂本篤紀氏が憤り
2021年1月1日付・第507/212号
【大阪】2020年12月22日、大阪市役所で令和2年・第1回大阪市地域公共交通会議が開かれた。メーン議題は大阪メトロが3月から実施予定のAIオンデマンド交通社会実験について。実験地域の生野区役所で行われた説明会で疑義が出された。説明会では率先して質問、22日の公共交通会議でも同じ主張を繰り返した坂本篤紀・大タ協副会長(日本城タクシー社長)は会議当日に開かれた記者懇談会で、次のように語った。
令和2年第1回・大阪市地域公共交通会議で大阪市と大阪メトロが、完全にタクシーは敵という姿勢で来たので、我われも打って出なければならない。次は、乗合タクシーで対抗していかなければならない。見える敵、見えない敵の両方と闘うための大阪タクシー協会の傭兵みたいなものと、私の立場を理解している。だから、協会の傭兵として頑張りたい。12月22日の大阪市地域公共交通会議のために、副会長に指名されたようなものだ。
喧嘩の相手は、大きい方がおもしろい。大阪市そのものが、タクシーを潰しに来ているわけだから。自由だのなんだのと言って、今回の社会実験では、当初は計40両近くのことを言っていたが、何故か計10両ほどでタクシーまがいのことをやろうとしている。それには、対抗していかなければならない。喧嘩腰にならないといけない。
12月17日に、大阪市と大阪メトロが相次いで大阪タクシー協会に事前説明をしに来た。協会の打ち合わせで坂本栄二会長から「手の内を見せるな」と言われていたが、私は市やメトロにバリアフリーやコロナ禍の話をして、公共交通会議での論議を深めようとした。だが、今日(12月22日)の公共交通会議で、彼らは「まず、社会実験をやらせてほしい」の一点張りだった。プロポーザルの受付が始まった8月4日から27日で住民の声は聞いていたはずなのだが…。一方、MaaSに備えて、日頃から準備をしてきたと言うが、MaaSをやれるのは、果たしてメトロだけなのか、どうか。
また、車椅子そっちのけで社会実験をするというのは矛盾している。「やらせてほしい」ありきではおかしい。それが問題点だ。ハッキリしているのは、儲からなかったからやめた赤バスの前歴を持っている人たちが、採算のことを一切言わないということだ。どのくらいの乗車で儲かるのか。赤字はどのくらいの線なのか、ということを一切言わない。これは、正しい説明でも何でもない。その一方で、持続可能な公共交通の構築などということを言っている。これではもう、言っていることが矛盾している。というよりも、「先にやらせてほしい」の一点張りなので、すでに論理が崩壊していると言える。
元に戻るが、こちらが12月17日に手の内を見せた上で、それからの5日間、さらに議論しようと提案したのに、会議当日はオウム返し作戦で押し切ろうとしてきた。議事進行で、始めに物を言わせないというような作戦に出たのにもかかわらず、たいしたことは言わなかった。これには、委員の一人である大阪市地域振興会の髙岡洋介副会長からも疑問を投げかけられる出来の悪さだ。
こうした状況なのに、さらに多数決を採ろうと模索する乱暴さだ。話し合う姿勢が全くない。会長に選任された内田敬・大阪市立大学工学研究科教授は公平性を装いつつも、圧倒的に大阪メトロに偏った入れ込みようと見受けられたが、それでもかばいきれなかった。大阪メトロは何の準備もなく、同じ説明の繰り返しで行けると思っていたようだ。もし、我われがオンデマンド交通を同じようにするなら、タクシーは各家の表札が停留所になる。1エリア70カ所ぐらい設置すると言っているミーティングポイントの目印に紙をペタペタ張る必要はなくなると言っても、そのことはスルーされ、反応がなかった。
朝6時から夜11時までの運行に対し、受け付けるのは9時~17時としているが、そんなおかしな乗り物に誰が乗るのだろうか。当日予約の原則なので、電話で予約する人は、始発から3時間のタイムラグがあって、初めて利用できるようになる。その間はアプリで、というような説明もなかった。その辺からも、おかしなものを無理に通そうとしているということが透けて見える。
しかし、見えている敵には、反対するのではなく、抵抗しなければならない。8人乗り(14人乗のハイエース・コミューターを8人乗に改造)のワゴン車を1便あたり満席にして1日中稼働させても、採算ベースの1日1両200人を下回る。万が一、採算が合ったとしたら、その方が恐ろしい。どんな感染拡大なのか、ということになるからだ。彼らが、そのようなことを、まず、やらせてほしいと言うなら、それは人体実証実験以外の何ものでもない。
しかも、大人1人210円(小人110円など)なので、タクシーを3人で利用して割り勘にした方が安い。しかし、この運賃も、規約などで社会実験の実施に賛同したら、自由に設定できるとしている。賛同ありきの消化試合をしようとしたから、流会になった。公共交通会議は1月15日に再開することになったが、規約によると、「委員の真摯な論議により合意形成を図るものとする。ただし、議長の判断により、委員等の過半数で決することができる」となっており、どこが真摯なのかという疑問が沸く。議長を務める人がおかしかったらアウトだ。相手が真摯な話し合いができる集団かどうか。それは我われに対してだけでなく、住民に対してもそうだ。
写真:大阪市から渡された地域公共交通会議委嘱状を手に話す坂本篤紀・大阪タクシー協会副会長(日本城タクシー社長)