都タクシーが高速タクシー、比叡タクシーの全株取得
筒井社長 雇調金に頼らず自ら生産性高める力が必要
2021年1月1日付・第507/212号
【京都】京都市域は、大都市部で最もコロナ禍の影響を受けた地域と言って過言ではない。京都には毎年、春と秋の観光シーズンがあり、タクシー業界も超繁忙期となる。しかし、昨年2020年は繁忙期がなかったばかりではなく、通常需要も激減し、追い打ちをかけた。この影響で、撤退を余儀なくされる事業者が出てきた。こうした中、都タクシー株式会社(筒井基好社長、京都市南区)は昨年11月27日付で、高速タクシー株式会社(伏見区)の全株式を取得した。比叡タクシー株式会社(山科区)は高速タクシーの子会社のため、高速タクシーの株式譲渡譲受の際に比叡タクシーも含めての買収となった。これら2社が加わり、タクシー・ハイヤー154両が新たに都タクシーグループの傘下となった。筒井社長は京都府タクシー協会の副会長を務める。本紙は昨年12月上旬、筒井社長に、この時期の大英断に至る経緯を聞いた。
筒井社長は高速タクシーの全株式の取得について「厳しい状況が続くが、社員の雇用を守り、地域を守り、公共交通の維持を全力で確保していく」と語った。高速タクシーにはもともと、修学旅行のために用意しているタクシーがあり、来年(2021年)の修学旅行の受注を済ませていた。受注の規模は明らかではないが、この分については、高速タクシーとしてぜひとも実施したいという強い思いが、前社長の松田有司氏にあった。筒井氏と松田氏は、学生時代から交友関係があったと聞く。今回の譲渡譲受は、業界において長年の友情による信頼関係がなせるワザだったということも言えるだろう。
筒井氏は「高速タクシーとして受けている仕事には責任をもつ。松田氏とは20年来の親友だ。彼の願いは私が引き継ぐ」と意気込む。一方、比叡タクシーに所属する運転者と職員は、定時制を含めて約90人だが、雇用を維持したまま、ほぼ全車両がコロナ休車を継続している。都タクシーグループは今回、比叡タクシーを譲受したことで、事実上の営業エリアは京都市の東側まで広がった。
これについて、筒井氏は「たまたま、そうなっただけで、特に京都市東部への戦略というものはない。当社グループの買収の歴史を見ても、たままた困っていた会社を救済することで社員を守り、地域から、『あのタクシー会社が良くなった』と言われれば、結局は地域の人たちに使っていただけるようになる。経営状況が悪くなった会社を再生させるのが、我われの経営理念だ。それが以前は、たまたま福井だったり、山口だったりした。戦略的に福井や山口に進出するという方針の下に行ったわけでない。
比叡タクシーについては、今回の譲渡譲受に絡んでは、コロナ禍が長引いていることもあるが、1日も早く運転者の皆さんが仕事できるように稼働開始に向けた準備を進めていく。雇用調整助成金は当面、2月末まで継続されるが、なるべくなら雇調金に頼らず、自分たちの力で生産活動をしていかないといけない。もうそろそろやらないと、雪が溶けているのに、まだ冬眠するような状態になってしまうだろう。
都タクシーグループは、この間、早くからタクシーを動かしてきており、休業だの休むだのと言う運転者はいない。もちろん、このようなときに稼ぐのはしんどいし、いろいろな波にさらされるが、どんな状況でも、仕事をして給料をいただくのは当たり前だと思っている。自分たちの力で頑張って、いかに元の姿に近づけるようにしていけるか、これまでに実践してきたことは良かったと思っている」と述べた。
その上で、筒井氏は「人は働いて賃金をいただき、生活するというのが本来の姿だと思っている。コロナ禍も第3波となり、まだまだ厳しいが、中国人が以前のように来るようになるまでには、3年はかかると見ている。ワクチンの接種が始まり、効果が表れる1年、2年はかかるという。私は、『それまで、寝ているつもりか』と言いたい。一方、良かったな、と思うのは、アプリ配車をやってきたので、そこは随分と助かった。アプリ配車が売上げに寄与する部分は大きかったと思う。このたびのコロナ禍で、伸びている業界はアマゾンなどネット通販などだ。かたやタクシーのネットとは何かというと、アプリ配車なのだろうと思っている」と述べ、時代の変化を素早く捉えることの大切さを強調した。
また、筒井氏は「これからの見通しは厳しいが、公共交通維持のため、やらなければならない。自分のところだけが生き残れる方法というのは、私はないと思っている。生き残るために知恵を出し合わなければならない。その一つは、タクシーをより便利にすることだろうと思う。便利にするということに対しては、ウーバーやライドシェアが先駆的に見本を見せてくれている。あのような形を日本のタクシーにどんどん取り込むことができれば生き残れるだろう。彼らがやっていることがタクシーでできれば、タクシーがライドシェアに取って代わられることなく、生き残っていけるかな、と思いながらやっている。
自社だけ生き残ろうと思えば、経営のスリム化しかない。けれども、この先、タクシー業界の全員が細々とやり、スリム化して、どうやって交通体系を維持することができるのだろうか。今は確かに、だいぶ贅肉が付いた状態になっている。つまり、供給過剰ではあると思うが、みんなが細くなり、3分の1になると、もはや、タクシー産業全体が生き残れなくなってしまう。太り続けろとは言わないが、何とか今の状態を維持し、便利にして増やし続ける方法を全員で構築することが利用者ニーズとして求められており、我われに突きつけられた喫緊の課題ではないか。
誤解のないようにおことわりしておくが、どこかが太って、どこかがやせるとか、差別化を進めるとか、そのようなことではない。もし差別化を進めると言うのなら、タクシーそのものが他の交通モードからの差別化を図り、ちょっと便利になるとか、他の交通モードでは当たり前になっているキャッシュレス化に追いつかなければならない。だから、交通シームレスを進めていくことの方が大事なのではないか。断言するが、独自の差別化というものに対しては模索していない。
交通シームレスと言うと、MaaSのようなものになるが、例えば、電車から降りようとしたら、自分が乗るタクシーがもう駅で待機しているという状況には、すべてのタクシーがそうはならず、タクシー業界が最も立ち後れていると言える。真の意味での交通シームレス化を、当社グループだけでなく、どの会社もやれるようにしないといけない。ただ、悲しいかな、どうしてもスリム化や撤退はある。そうなってくると、自分のところだけでは、絶対に回りきれなくなる。それなら、この場合は他の会社が行ける、というような形にしておかないといけない。これは、とても大事なことだと思っている」と語った。
写真:上=2020年10月、近畿運輸局が主催した公共交通機関のコロナ感染防止対策セミナーで講演する筒井社長
下=コロナ感染軽症患者の入退院、宿初施設等への移動用に飛沫感染抑制措置を施したジャパンタクシーの車内。空調は運転席と旅客席で圧を変えている