コロナ禍をどう乗り越え タクシーを未来に導くのか
大阪のタクシー問題を考える会討論の部
近藤、山田、清野、古知、山根氏がタクシーの生き残りを語る

2021年1月1日

【大阪】大阪市の「ホテルアウィーナ大阪」で昨年12月8日開かれた大阪のタクシー問題を考える会・討論会「タクシーの未来とMaaS/タクシーの歴史始まって以来の危機~コロナ禍を乗り越えて~」の模様を掲載する。パネリストは、近藤洋祐・電脳交通社長(徳島・吉野川タクシー社長)、山田康文・アサヒタクシー社長、清野吉光・前システムオリジン社長、山根成尊・珊瑚交通グループ代表(大阪のタクシー問題を考える会・世話人)、モデレーター(司会進行役)は、古知愛一郎・梅田交通グループ代表(大阪のタクシー問題を考える会・世話人)。しっかり感染対策が施された会場に50人余が参加した。

古知 予想だにしなかったコロナ禍の影響で、壊滅的に打撃を受けているというのが、世界的にも国内どの地域でも同じように言える。今日のタクシーが劇的に変化せざるをえない中で、市場も変わってきている。酔客もいなくなった。何とかしのいで、一日、一日を生き延びている。今日のタクシーについて発言をお願いしたい。

近藤 コロナ禍で、タクシーはなくてはならない存在だ。利用者が地域によっては9割減ったと言われているが、それでも1割が残っている。一方、インバウンドは前年同月比で99%まで落ち込んでいる。タクシー業界は全国平均で5割程度が3月以降平均して市場からいなくなっている。半分ぐらいの人が、それでも移動している状況だ。その中身は、高齢者や通勤、都市部で自家用車を持っていない人の移動が主だったと思う。その人たちの移動を止めてしまうと、いろいろな弊害が生じてしまう。ドアツードアの需要はこれが現実なのかと強く感じた。ひじょうに必要とされていると感じている。

そうした中、少子高齢化が問題だと思っている。山口県の人口4000人ぐらいの地域でNTTドコモと一緒に実証実験を行ったのだが、そこに走るコミュニティバスに行政が年間3000万円のコストをかけていた。そこには、利用者が1日に1人か2人しかいなくて、利用者がいなかった。そこで、近くを走っていたタクシーを借りて8日間、その地域で無料で走らせてみた。そしたら、8日間で470人が利用して、ひじょうに増えた。利用者にアンケートをとったところ、約半分の46%の人たちが、人生で初めてタクシーに乗った高齢者の人だった。何が原因でタクシーを使うようになったのかと聞いたところ、これまではコストが高いので乗らなかったということだった。それなら、コストが問題なのだろうと思い、100円でほとんどのところへ行けるコミュニティーバスを、何故使わなかったのかと聞くと、停留所まで行くのがたいへんなのと、ステップが付いているので、足を上げると痛いのだが、その痛がっている姿を横にいる人に見られるのが嫌だったというのが理由だと語ってくれた。本当に人間らしい声だと思った。

高齢化が進んでいる町で、ドアツードアの乗り物がコストを見直すと、これだけ活性化するというデータが浮かび上がってきた。これだけ高齢化が進んでいるこの国では、ドアツードアの輸送機関が増えていくのではないかと思っている。そうした意味でも、コストの見直しを進めないといけないと思っている。今の主要コストでいうと、人件費、保険、伝票などがあり、これ以上切り詰めるのは難しいと思っている。

ならば、どの会社にも共通する事務コスト、労務コスト、配車コストをアウトソーシングする仕組みを、制度の見直しを含めて進めていかなければならない。配車業務は外注できても、労務管理や点呼はどうするのか、ということになる。では、点呼自体も外注できるように制度を変えていこうという建設的な議論に持ち込まないといけない。運転者の教育コスト、車両のリース料など、営業車の運行管理に必要なコストだけを稼ぐようなモデルをしっかりと作れれば、まだ生き残れる道筋がつくれる。コスト過剰になっている部分を何社かで払い出せる仕組みが機能すれば、今ほどコストはかからなくなるはずだ。

山田 夜の仕事が本当になくなってきた。2割増の時間を過ぎると、ほとんどタクシーは使われない。広島県全体がそのような状況になってきた。一方、昼間の実車回数がだいぶ上昇してきている。バスよりも、タクシーの方が消毒や換気もできていて、感染確率が低いということを、高齢者は家族から言われているのが理由のようだ。しかし、どうしても夜が稼働していた頃のような売上げには戻っていない。そこをどう構築していくかを考えたい。昼の売上げに対する賃金を増やし、勤務変更をしようと考えている。

清野 今、コロナで本当に苦しんでいる事業者さんからは、ひんしゅくを買うかもしれないが、タクシー業界はまだいい方だ。飛行機、鉄道、バスは壊滅に近い状態だ。タクシーも前年対比で営収はたいへん減っているが、他の交通機関に比べれば、それなりの需要がある。特に減っている需要は、夜の飲み会だと思うが、全国のタクシー会社の中には、それほど打撃を受けていないところもある。夜の酔客が主要な顧客ではなく、高齢者の需要、腎臓透析の医者と連携しているところがある。今のコロナ禍から回復しても、パンデミックは繰り返されるので、需要の構造を振り替えていく必要がある。

もうひとつは、タクシーの給料は歩合で変動費なので、ある意味では運転者にしわ寄せすることができる。これが固定費なら持たないだろう。もちろん、事業者もたいへんだが、歩合給というシステムの中で、お互いに痛み分けができる。清水(静岡市)で先日、タクシーに乗ったら、その運転者は給料が月6万円にしかならないと言っていた。これが良い、悪いの話になると難しいが、そういう仕組みを持っているということは、ある意味で生き残る上で、有利なシステムだと思っている。いろんな問題は残ると思うが、たぶん、回復は他の交通産業よりは早いと期待したい。さらにひんしゅくを買うかもしれないが、このコロナで倒産したり、廃業したりした事業者は、実はコロナ以前から経営上の問題を抱えていて、それがコロナがきっかけになり、一挙に顕在化したというケースが多いのではないかと推測される。

古知 タクシーの明日と未来についてだが、これを2つに分けたい。大阪では、日に日に売上げが下がっている。1月11日まで分散してお正月をするように政府は言っているが、このような状況下で、やっていけるかな、というのが懸念材料になっている。そうした直近のタクシーの明日をどう見ているのか。もう一つは、これからのタクシーは過去と現在を鑑みて、どこにターゲットを絞って、社会的にどのようなポジションを得て、どのようなことを提供していくのか。コロナは外部要因の一つでもあるし、運転者の高齢化が内部要因と考えられる。新しい運賃やMaaSに参加する機会、白タク、ライドシェアなど、これからの時代の変化に対応したタクシー業として、どこに進むべきか、展望をお願いしたい。

近藤 直近にやらなければならないことは、細かい経費を切り詰めていくこと。ガスを電気に変えるなど、個々のコストダウンを図る必要があると思っている。今、取り組んでいることについては、クロスタクシーという一般社団法人の代表理事を務めている。こちらでチャレンジをいくつか行っている。タクシー会社で雇用しなければならない有資格者の垣根を一旦外し、アウトソーシングをできるような仕組み作りをする。第一段階として点呼をリモートワーク化して、その次の段階で外注できるような仕組みをつくり、法人タクシー会社が抱えているコストをより軽減化していこうという取組を進めている。

事故を減らすためにどうしたらいいのかという問いに対し、高齢運転者が増えている現在では、打つ手がない。ならば、平均年齢を引き下げる取組を業界団体と一緒に進める。タクシー会社が事故軽減装置設置による恩恵が受けられるよう、損保会社と一緒になって新企画の提言等を進めている。業界の中で、キャッシュが溶けてしまい、ビバークが必要になったとき、その会社の株を一時的に引き取り、その代りに出資をする形で現金を送り込む。社団法人経由で最低賃金等のコストを送り込み、非常態勢を一緒にやっていく。その会社は黒字化した瞬間にファンドから株を買い戻すという、タクシー業界内の救済ファンドを作れないかというチャレンジをしようと考えている。タクシー業界がお金がなかったら金融機関から借りるしかないので、その選択肢を広げたい。

今後については、タクシー業界は1・6兆円の市場だが、鉄道業界、バス業界など他の陸路の運輸産業との境界が曖昧になってきている。地域によっては、バス会社が運行していたコミュニティバスを、利用者が減ってきているので、制度を見直してオンデマンド交通に切替えるところが増えている。JRグループ、私鉄連合、バス、タクシー、運転代行等、プロの輸送機関を合わすと、10兆円ぐらいの規模になる。年間100億人の輸送となるが、これらがデータで予測できる環境になる。そうなったとき、本当にその地域で持続できる交通網は、今の交通網ではないかいという仮説が成立する。タクシー業界には、家から目的地まで輸送できるというのが、ひじょうに大きな強みになってくると思う。そこを生かして、1・6兆円以上の市場にしていくことができるのではないかと思っている。

山田 先ほども今がチャンスだと言ったが、車両数を増やす状況にある。電話を受けてから20分経過すると、断られる。それを、できるだけ5分以内に行ける仕組みをつくり、いちばん電話が多い時間帯に合わせた配車ができるようにした実験を行っている。経費を削って工夫しなければならない中、負担になっているのは内勤なので、チケット、営業、経理、パン屋などの部門に時間が空いた部署から忙しい部署に回るという二足のわらじを履ける仕組みをどうつくるかという取組を行っている。従来のタクシーという概念をどう取り払ったらいいかという発想で新しい仕組みをどうつくるかをやっていかなければならない。

行政もバスに回す予算を削っており、路線の撤退が始まっている。ただ、ドアツードアのタクシーが乗りやすい環境、東京の山手線のように、1本乗り遅れても、すぐにまた来るという仕組みを、どうタクシーでつくっていくか。白タクを入れさせないため、行政と連絡を密にして提案を受けるなど、ラストワンマイルも含め、タクシーでできることはタクシーに取り込む形の構築の強化を進めている。

清野 直近については、各社で現金をできるだけ確保しておいた方がいいと思う。会社は、赤字でも黒字でも、資金が回らなければ、潰れてしまう。未来については、地域ごとのプラットフォーム。このプラットフォームは、地域のタクシーのラストワンマイルを担うべき配車のプラットフォームで、これをつくることは簡単ではないが、必要ではないかと思う。当然これは、乗合も含めて、すべてを統括して、MaaS全体の中で、ラストワンマイルを担う移動のためのプラットフォームだ。これは、昔からタクシー業界にはなじまなかった。協同組合をつくり、共同配車を行ってきた。都市部では継続するが、地方ではつくっては壊れ、つくっては壊れで、結局は、自分の顧客が相手に取られたとかで、仲間割れをして分裂してしまう。

ところが、今ではコスト的にも、そのようなことを言っていられなくなった。配車回数が減り、それぞれの会社が負担するコストに見合わなくなった。もはや、自分のお客さんだ、何だかんだと言ってられない。タクシー事業者は、あの利用者は自分のところしか使わないと思っているが、案外、利用者は早く来てくれた方がいいという気持ちを持っている人が多い。静岡には、10両程度の事業者が多いが、そこに直接電話で配車要請しても、対応ができなくて、何社かには断られる。ならば、会社を問わず配車できる仕組みを作った方が、利用者にとっても便利だ。そのような声が、たくさん出てきた。そこで、配車アプリが配車組合の代りになるようになってきた。しかし、配車アプリだけでは、地域の最適プラットフォームはできない。もう少し、重層なレベルの高いプラットフォームを作っていきたい。

これは、タクシー事業者が共同でつくるというよりも、地域の行政や金融機関などを含め、静岡で言うと、例えば、静岡市プラットフォーム株式会を設立し、静岡市や静岡銀行など、人の移動の重要性を知っている企業、それこそシステムオリジンも含め、いろんなとろころが参加して、そうしたもプラットフォームを作る。大阪でも、1社だけでは難しいが、複数社が賛同すれば配車の確立が高まるし、コストも軽減化できる。実働時間率、実車時間率をプラットフォームを通じて、どう変えていくかだと思う。

今、菅内閣が盛んに言い始めているのは、中小企業を大規模化するためのインセンティブを働かせようということだ。今の中小企業基本法は1963年に施行されたもので、人口が増える時代に雇用を確保することを目的としたもので、ある資本金以下は優遇するという政策だった。政府の成長戦略会議委員のデービット・アトキンソン氏は、日本の社会の生産性の低さは、中小企業が多すぎるからだと盛んに言っている。日本のGNPは世界3位だが、GDPは28位でG7で最下位だ。そう言うと、中小企業を潰せと言っているように聞こえるが、そうではなく、中小企業が成長できるような政策を打っていこうということを言っている。大企業が中小企業をM&Aすることも含まれるが、協業など、事実上の大規模化も含まれる。中小企業組合のような形は経験的にうまくいかない。全国のタクシー事業者のうち、30両以下が75%、10両以下は17%。これは、経営改善は難しい。そして、計数管理に基づいた経営に徹し、ある意味でどんぶり勘定の経営から脱しないと、AIの時代に導く経営はできないのではないか。

山根 直近のコロナ禍に対しては、じっと耐えるしかないではないか。それに尽きる。近未来については、薬師寺薫・関西中央グループ代表も言われていたが、リース制、企業内個人タクシーになるのか、あるいは大方のタクシーは自治体との連携の下に行われるのではないかと思っている。コスト削減には、行政にも働きかけなければならない。そこは近藤さんと連携していきたい。コスト削減については、皆で知恵を絞り、どのようなものができるのか、どう行政に働きかけるのか、ということを考える会でも論議して提案できればと思っている。MaaSに関する資料を読めば読むほど、白タクに近づくのではないかと思う。そうなるという前提の下で、何とかそうさせない方法について(現実的に)議論するべきでないか。来たるべきライドシェア法案が成立したあかつきには、タクシーがどう生き残っていけるかということについて、もっと論議を深めていきたい。

写真:上から、古知愛一郞・梅田交通グループ代表(大阪のタクシー問題を考える会・世話人)、近藤洋祐・電脳交通社長(徳島・吉野川タクシー社長)、山田康文・アサヒタクシー社長(広島県福山市)、山根成尊・珊瑚交通グループ代表(大阪のタクシー問題を考える会・世話人)の順