スマートメーターで多面的対応が可能に
田中亮一郎 第一交通産業社長 次の目玉を語る

2021年1月1日付・新春特別編集号

【福岡】コロナ禍を乗り越えるためには、従来の8割の収入で黒字経営ができる体質づくりが必要なら、その次に来るアフターコロナでタクシーは何をなすべきだろうか。そこを見通すには東京だけでなく、全国的視野に立つことが必要だ。本紙は昨年12月18日、福岡市内で、日本最大のタクシー会社を経営する田中亮一郎・第一交通産業グループ社長に聞いた。


おでかけ交通 百路線以上増える

第一交通産業グループは上半期赤字になった。その赤字の原因は雇用調整助成金がまだ固まっていない中、運転者に辞めてしまわれては困るというので、先払いしたのが30億円以上ある。その後、3月分が6月に入り、その後は徐々に入っているが、2カ月遅れている。経費でどんどん出ているので仕方がない。それでも、30億円余りあった赤字が半年で10数億円に減った。10月に単月黒字になり、11月半ばまでは調子が良かったが、後半になると第三波が到来し、厳しい状況になっている。一方、不動産が好調なので、最終的には今期の決算は10億円ぐらいのマイナスで済むと予想している。夏ぐらいまでには解決すると思うが、オリンピックもあるかどうか分からないので、来年いっぱいまでは、サービス業や交通費、交際費などは一番最初にカットされ、一番最後に戻ってくるというのは、景気の悪いときのパターンだから、交通運輸産業は公共交通機関も含め、1年から1年半は厳しいと思う。その後、これまでは、大量交通機関が動いていたが、個別輸送機関やグループの小旅行に代わっていくだろう。そのような仕事に期待している。

今年2月からこれまで、一つだけ、当社グループが変わったのは、おでかけ交通が100路線以上増えたということだ。それは、地域の自治体の人たちが、通勤・通学は別にしても、それ以外の時間帯が、休日ダイヤのように1時間に1本という形になってきたので、そこの仕事が新たに増えた。その増えた分に比しても、夜の足りなくなった分には及ばない。当社グループの全体で言うと、昼間の電話の本数は圧倒的に増えている。25%ぐらい増えている。そこまで増えても、夜は中長距離が多いが、昼の利用者は、地元の高齢者などが多いので、短距離利用になる。ここは普通にとっておいて、夜が正常化したときにどのくらい戻るかだ。

4月ぐらいから、売上げが8割になっても、赤字にならない経営手法を考えようということで、それはできた。10月はタクシー事業では8割だったが、5000万円の利益が出た。しかし、8割を切るとまだ厳しい。もともと、タクシー事業は、30両、40両ぐらいの会社は、収益率は3~4%だ。だから、10%売上げた落ちたら、赤字にはるのは当然。それが当社グループは何でそうならなかったかというと、やはり、スケールメリットがあったからだ。仕入れにおいて、いろいろな購入物がかなり安く押さえられていた。そこに皆が気づいて行ったのが、ナンバーワンネットワークだった。電気自動車に代っていくかもしれないが、代ったときには、これまでの設備投資が無駄になる。やはりお金が必要だ。そうなると、中小経営者は、銀行から借りることはできても、満足できる車両数まで借りることができないかもしれない。そうしたとき、貸す側も、与信がとれないといけない。それで、当社グループが間に入ると、できるようになる。

No.1ネットワークで人材互助

おでかけ交通とタクシー業界の互助会のようなものであるナンバーワンネットワークを増やしていく。オリックスや損保ジャパン、タイヤ屋さんやバッテリー屋さんなど、賛助会員もどんどん増えている。今までは、当社グループがない地域で、ナンバーワンネットワークを増やしてきた。それはそれで増やしていくが、ある地域では、リースや購買だけ一緒に組んでやれるところがあればやろうというところが出てきた。地方の金融機関からも話が来ている。地方の金融機関も合併をしなければならないような状況の中、例えばAタクシー会社が、例えば300坪あるとする。その300坪を当社グループが購入して、その土地をAタクシー会社に貸せばいい。資金繰りのお金を、福岡の銀行ではなく、地元の銀行が出すという仕組みだ。そのようなことを、皆さんが気づき始めていて、賛助会員になりたいという人が増えている。

さらに、ナンバーワンネットワークでやろうとしているのは、人材募集サイトのようなものだ。例えば、都会でタクシーに乗っていた人が、田舎に戻らなければならなくなったとき、その田舎に当社グループがあれば、そこで働ける。もっと厳しくなれば、運行管理者が1人しかいない会社があるとしたら、そこに当社グループが運行管理者を派遣する。タクシー業界の中で、やれることがあるなら、当社グループが代行してもいい。例えば、経理だが、子会社はたくさんあるが、経理業務は本社でアウトソーシングのような形でやっている。そこに何社増えてもやれる。なので、提携先の会社には、事務が一人いて、毎日データを打ち込んで送ってくれれば、決算や税務はこちらが代行してもいい。そのようなタクシー会社内の仕事が当社はできるので、それをタクシー業界価格でできる。今回、成長戦略会議の中にデービット・アトキンソンが入り、中小企業はいらないという話になっているが、その先取りのようなことができる。今のうち、当社グループが各地でやれば、使える仕事になるだろう。中小企業の再編という観点でいうと、日本の中小企業はライバル関係にあるところが多く、技術がデータ化されていないところも多い。一方、海外の中小企業はベンチャーで、企業価値を付けるために新しいことをやっているところが多い。そこが大きく違う。そこを分かっているのかどうか。

全体からすると、タクシーはたった20万両余しかなく、それがどんどん減っていっている。他業種の大きな会社がやろうとしても、おいしくない仕事だ。しかし、当社グループがやると、スケールメリットが増えていく。それを、隠さずにやらないと、当社グループばかり儲けていると思われかねない。そこはオープンにしてマージンは取るが、会費はとらない。これからは、会費をいただく可能性もあるが、会費をいただいた事業者には、別のサービスをしようと考えている。経済団体を辞める人たちがいるが、そのような人たちは自分たちが恩恵を受けていると思っていないからだ。中小の集まりのタクシー業界も、まさにそうで、恩恵がなかったら、会費を払っても仕方がないと思うかもしれない。だから、仕事に合った手数料、マージンをいただければ、どちらもいい。配車室も全部受けるかもしれないし、そうしたところにこれからのタクシーの生きる道があるのだと思う。これから先は、地域交通やお出かけ交通を張り巡らせておけば、そこにMaaSやインバウンドなどが入ってこられない。地域交通やお出かけ交通のある地域にMaaSを作っても、利用者がないと思う。お出かけ交通も、1日10本走っていたのが、休日は観光客のために20本走らせようということになり、そこに地域住民の高齢者とともに、外国人が乗ってもいい。外国人が増えれば、外国人専用の便を出してもいい。

定期券 おでかけ交通に適用

タクシーが難しいのは、当社グループでも、定期券の実証実験を行ったが、9回、10回の利用となると、赤字になる。12月の定例正副会長会議でも言ったが、回数券はクーポン10%と決まっているからいいが、定期券となると、1対1となるタクシーではまずいと。30回利用されたら、完全にアウトになる。だから、それは回数券でやらなければならないし、定期券でできるのは、おでかけ交通ではないか。それを進めさせていただくと言った。多分、中央の人たちは、コロナでもそうだが、地方がどれだけ困っているか、頭にないのだと思う。

雇調金 3月まで延長を要請

雇調金は2月まで、コロナ休車は3月までになっているが、雇調金も3月までにしてほしいということは、私が直接、国交省などに言っている。多分、3月まで1カ月延長されることになるだろう。おそらく、雇調金がなくなったら、地方のタクシー事業者はつぶれるだろう。そのようなことは、中央の人たちには分からない。先日の正副会長会議では、コロナ禍で、営業エリアを越えたオーダーが入ってくるのだが、それを言うと、皆さん「何で?」と不思議がる。例えば、北海道であれば、大都市は札幌、函館、釧路、小樽、夕張ぐらいだが、宿泊施設がないから、コロナに感染したときに、最寄りの旭川まで行っている。しかし、そこの宿泊施設ば満杯になったら、何とかしなければいけない。地元のタクシー会社はやらないと言う。そのとき、どうするかという問題がある。小さな自治体には、遠方まで感染者等を運んでいる余裕がない。地域格差があるのは仕方がないが、最低限、守らなければならないのは、医療、福祉、足だと思っている。これを事業化できるようにしていかないとダメになる。高齢化が進み、人口減少が進むと、ますますこうなる。だから、当社グループの若い人には、「自信をもってやれ。当社がやっていることは間違えていない」と言っている。そうすると、どんどん増えている。

まず、当社グループがやったことは、運転者を辞めさせない、いま入っているテナントを出さない、ということにお金を使った。それで、外向きは収まったので、次に行ったのが、85%で赤字にならないようにしよう、それが達成できたら、80%で赤字にならないようにしよう、ということを皆がやってくれて、仕入れ先まで変えたりした。例えば、車両が50両しか営業所になくて、30両しか動いていないのなら、止める前の安い日に50両を満タンにする。ガス価が高くなると、止まっている車両を動かす。そういうところまで考えている。それは、私が規制緩和のとき、車両に残っている燃料は在庫だと言ったことを、覚えていてくれたからだろ思う。今までは、次の運転者のために満タンにして入庫していたから、毎日、お金が少しずつ出ていた。でも、毎日、使っていない車両がある。1日の最高乗務距離が決まっているなら、その半分ぐらいは残しておいたらいいだろう。むしろ、100%稼働していても、満タンにするなと言っている。

コロナ休車の復活と、特措法減車の復活がかぶる時期がある。それは別の問題で、コロナがすべて終息してからでないと、特措法減車の復活をUDで戻すのは無理だと言っている。地域別に見ていかないといけない。今は、逆に言えば、経営資力がダントツになれるチャンスだと思っている。当社グループは今度、東京で日の丸交通、荏原交通とともにウーバーをやるが、その地域にタクシーがないと、都市部でもライドシェアに取られてしまうと思っている。観光地などで、タクシーがゼロになるのが怖い。その意味でも、ナンバーワンネットワークで生き残ってもらわなければならない。ライドシェア反対と言い、抵抗勢力と思われたら、大きな波に飲み込まれてしまう。だから、当社グループはDiDiともウーバーとも組んだ。来年1年は我慢をしつつ、運転者のケアを地元の仕事をどうとっていくかだ。観光など、他地域から流入するビジネスは、その地域にコロナがどれだけ蔓延しているかで変わってしまう。そこはあまり期待しない。

地域でいかに小さな仕事をとっていき、8割以上の売上げを確保するか。その準備はできた。7、8年かけて、やっと130路線になったのに、8カ月で100路線、お出かけ交通ができた。東京でもお出かけ交通をやるべきだと思っている。世田谷や杉並には、駅がないから超不便だ。そこで、タクシーを呼ぶと、大通りに出るまでにお金がかかるので、デマンドをやればいい。それをやれば、有識者からもやっていると思ってもらえる。地方でやっているから、分からない。世田谷の多摩川沿いから、岡本という高級住宅地を通り、環八までの間は、ものすごい坂になっているが、そこにはタクシーがない。そういうところで、坂の下から上まで100円で走るという乗合いをするタクシー会社が出てきたら、絶対にいいと思う。

たぶん、道路運送法で運転者の雇用が難しくなっているからタクシーは免許制(事業許可)になっているが、自動運転になり、機械がやるということになると、誰がやっても同じということになる。タクシーはタクシーでなくてもいいという時代がくるかもしれない。ただし、大きな枠組みをつくるときに、8000両、9000両のところと、5両のところをたくさん集めるのとでは違うと思う。そうしたら、当社は自動運転会社でもいい。自動運転になったところで、高齢者は乗らないだろう。

今、スバルが考えているのはリモート運転だ。自動運転の自動車が来たら、モニターに人の顔が写り、「本日は私が運転します」と言って、安心を与えて運転する。スバルは、今の人が運転する自動車から、自動運転の自動車になるまでの過渡期をどうするかを研究している。タクシー会社ではなくても、移動に関することはできると思うが、大量に車両数を抱えなければ、利用者ニーズに答えることは難しいと思う。レンタカー会社でもいいし、自動運転の車両がお迎えに行きます、というのを、タクシー会社ではない第一交通がやってもいいと思っている。アフターコロナでスタートダッシュができるかどうかだ。ただ、コロナ禍が3年続くと、それも難しくなってくる。

スマートメーターを目玉に

先日、国交省に呼ばれ、自動車局、総合政策局の幹部クラスら20人の前で話したが、何かインパクトのあることをしなければならないということだったので、「タクシーメーターをスマートメーターに変える」ということを提案した。例えば、そこにタブレットを付ければ観光案内ができる。タブレットの前後にカメラを付ければ、ドライブレコーダーにもなる。キャッシュレスのアプリを入れれば、新しいタブレットを入れなくていい。災害情報や交通情報も流せる。地方に行けば行くほど、防災無線との連携もできる。災害時にどこの家に誰が迎えに行くという情報も、そのタブレットでまとめてできる。省庁もIT化で規制緩和をやりたいと言っているなら、経産省と国交省がそれをやらなければならない。そこに総務省も入れて、地域情報を入れたら、タクシーは完全に地方のインフラになる。そこに緊急地震速報が流れてもいい。

今は、タクシーメーターでは運賃しか出ない。しかし、これからは、運賃プラス料金というサービスが出てくる。そういうときに、運賃と料金を合算した領収書は、今のメーターでは出せないが、タブレットがあれば、指定先に電子請求書や領収書を送ることができる。どこで祭をやっているとか、こんなイベントをやっているとかも分かる。タクシーの究極はここにあると思う。これを先にしておけば、自動運転はもっと楽になる。アプリを入れるようにすれば、1台10数万円もするタクシーメーターを入れなくてもいいようになる。今は、歩いている人でも、携帯の地図を見て歩く時代なのだから。運転者が何もしなくても、勝手にタクシーの中でアプリが動くということをやろうと提案した。今もタブレットでいろいろな情報が流れているが、それは一方的な情報だ。利用者から、今ほしいものを探せるということが必要だ。タブレットからQRコードで読み取れるようにすればいい。例えば、ライブカメラで、今その道が凍結しているか、渋滞しているか、雨が降っているかなどが、個人情報が保護されながら分かるQRコードで読み取れるようにする。タクシーのカメラの画像で、観光地の様子が分かるようにする。その情報に1回いくらかでも支払えるようにすればいい。

大阪のAIオンデマンド交通社会実験 ネガティブ情報を生かせ

大阪メトロがやろうとしているAIオンデマンド交通については、運賃では勝てないから、どのようにするのか、よく見ておいた方がいいと思う。社会実験は失敗するような気がしている。社会実験の最中に利用者の声をよく聞いておき、その反応を生かしたものを、タクシー業界が別の地域で実践した方がいい。利用しない人には、何故利用しないのかということを調べて、それを商売に結びつけたらどうか。札幌では、メトロとは組んでいないが、冬の時期は、地下鉄駅から自宅へ帰るのに、タクシーの行列ができる。そのようなことをやったらどうか。その場合には定額相乗りで、この地域までは1人500円と運賃を明確にするなどをすればいい。タクシーなら駅から目的地まで行ける。他の私鉄線駅からの定額乗合をやってもいい。そうした社会実験をやる。大阪メトロが社会実験をやる地域とかぶらない方がいいだろう。 (談)

写真:田中亮一郎・第一交通産業グループ社長(北九州市のグループ本社で)