従来の8割の収入で経営可能な仕組み作り
川鍋 全タク連会長にコロナ禍の生き残り策を聞く
2021年1月1日付・新春特別編集号
【東京】国内では昨年2月、豪華クルーズ船ダイヤモンドプリンセス号で顕在化した新型コロナウィルス感染症は、一旦は収束しそうにも見えたが、その後全国へと感染拡大が続き、3つ目の波にさらされている。再度の外出自粛要請が行われる中、人を運ぶタクシー事業は大打撃を被っている。政府は第三次補正でバス・タクシーへの感染防止策の補助として300億円余りを予算化、有効活用が求められている。本紙は昨年12月24日、全タク連の川鍋一朗会長にタクシーは今、何をすべきかなどを聞いた。
運改してない地域はダメージ
―― コロナ禍でたいへんだった1年を振り返って
川鍋 誰も経験したことのな未曾有のコロナ禍なので、業界内で意見が割れたということはない。政治も行政も、前向きにやれることは何でもやるという形で、例えば、タクシー議員連盟の開催、そこにおけるお願いは国レベルのものだが、都のレベルでは、お願いすると、すぐに10万枚のマスクをいただけたりと。そういう面ではたいへんだったが、日々変化していた。雇用調整助成金は最初のうち、右往左往したので、早い目に提出した人は、提出し直したり、政府も最初は難しいやり方から簡便な申請方法になってきた。そのようなバタバタはあったが、一つの方向性に向かえたのではないか。やれることは全員で全力でやれたのではないかと思っている。営業に関して、分かれてしまったのは、都会と地方というよりは、2月に運賃改定を実施した48地域と、それ以外の地域との間でダメージの差があったとことが、かなり明確な数字で出た。東京を含めて、運賃改定を実施していない地域のダメージは、より大きかったというように思っている。もちろん、運賃改定を実施した地域でもたいへんだったが、程度としての話だ。また、年末繁忙期、さらなる深刻な事態となっている。第一波以降、緊急事態宣言こそ出ていないが、いちばん緊縮ムードになっている。今、菅総理の会食に端を発し、政治家先生がたが一番気をつけるようになったのがひとつの傾向だが、全タク連、東タク協の新年賀詞交歓会は開催する方向で調整している。そうした中、どうしようかという議論が再び起きていて、日々状況が変わる中、繊細な舵取りを強いられていることは事実だ。どちらに決断したとしても、批判があがってしまう。今、各人が冷静になり、状況に応じて対応していくしかないと思っている。
感染防止対策がタクシー業界でどうだったかということは、皆さん自身がお感じになることだと思うが、私自身としては、赤羽国交大臣が2月に営業所の視察に来られた。その頃は正直、世の中的には「え、そこまで?」という空気感があった。だから、むしろ国交省からは世間の空気感よりも早い目に手を打っていただけたということを、実績として感じている。コロナ禍に対応する初動についても悪くはなかったと思っている。コロナ休業、雇調金、車両、すべてをとって、事業者もやれるだけやったし、政治も行政もやれるだけやっていただいたと見ている。
東京も水面下で相当深刻
―― 東京と地方の差は、各自治体の取組がそのまま事業者の経営面などに影響しているのではないか。東京で補助金が出ている部分が、地方の自治体ではすんなりと出なかったりということで、そうした意味での格差が出ているのではないか。すでにコロナ禍の影響を受けて倒産した事業者も出ている。それ以外にも自主廃業した事業者もある。こうしたことを含めた地方での動きをどう見ているか
川鍋 例えば、当社グループのある地域も相当厳しい。それに先立ち、神戸で事業の整理を一部行い、統廃合した。必ずしも地方で進んでいるわけではないと思っている。東京でも水面下で、かなり進み始めている。当社グループの普段から弱かったところでもある。ギリギリで進んでいたところが、今回のダメージで、ひじょうに状況が悪化している。そこで、当社グループは独自の判断で事業統廃合・再編を行っていく。これは、各事業者の判断になる。何とも言えない。
―― タクシー業界だけでなく、日本全体がコロナ禍中の影響を受けている状況なので、今、何をなすべきかという問いに対する答は出しにくいと思う。日本交通グループとしては、そうした事業統廃合・再編に早くから取り組んでこられたことと思うが、日本全体で見ると、着手に遅れたところもあるようだ
各事業者が経営判断を
川鍋 こればかりは全タク連会長としてというよりも、各事業者の経営判断になると思う。無利子・無担保の法的借り入れなどが、多少は延長されたとしても、いずれは返済しなければならない。社会保険料や消費税の納入についても、少し先送りされたと言えども、その先には2年分を支払わなければならない。そうした点を見据えて、早い内に事業統合等をしていかないと、従来の売上げの8割で経営が成り立つようにしていかないといけないと思っている。例えば、私は今、モビリティー・テクノロジーズにいるが、ここは床面積5割、半分に減らしている。やはり、売上げが下がっても耐えられるように動かざるをえない。各事業者が、それぞれの経営判断で、早い目、早い目に動かないと、本当にじり貧になってしまう。そうした恐怖感は一事業者として感じている。
―― 第三次補正予算が閣議決定された。バス・タクシー関係では、高性能フィルターを装着した空気清浄機等、感染予防装置を装備したジャパンタクシーが各議連総会で野外展示され、好評だった。これが予算化され、半額補助で前倒し執行すると祓川直也・自動車局長は言われているが、川鍋会長の評価はどうか。また、ニューノーマルタクシーの現時点での見通しについてお聞かせ願いたい
できる事業者はタクシーの近未来形を内外に示せ
川鍋 第二次補正予算段階で、タクシーへの補助が漏れていたので、第三次補正でタクシー業界にも予算が付いたということに対しては、たいへんありがたいことだと思っている。政治・行政に感謝の意をタクシー業界として表するべきだと思っている。その上で、これを一生懸命、使っていくしかないと思っている。一方、それどころではないという声もある。半額補助と言っても、それなりの価格になるというのも事実だ。ただし、やれる人はこぞって実施して、タクシーの近未来形をつくる。それによって、タクシーはしっかりとやっているということを政治・行政にご理解いただき、国民の皆さんにも安心して利用していただくということだと思う。ちなみに、これは全部セットで購入しなくてもいい。空気清浄機だけとか、タブレットだけとか。また、空気清浄機とタブレットだけがフューチャーされているが、プラスチック製の感染防護シールドなど、対象はいろいろある。なので、タクシーが他の公共交通機関よりも安心・安全だということを、見せられるかということは、各事業者の行動にかかっていると思う。もちろん、日本交通は率先してやりたいと思っている。
―― 空気清浄機と見える化タブレットがセットでないと補助が下りないというニュアンスが伝わっていたが、これは1点だけでも構わないし、感染防護シールドもセットにしても構わないという仕組みになっているという理解でいいのか
セットでない補助もOK
川鍋 はい。私も、国交省の人と話をして、初めて理解したのだが、例えば、空気清浄機ではなく、他のオゾンミストとか、いろいろなやり方があって、それによって車内の空気がきれいだということを、見える化タブレットで示すだけでもいいのではないかと言う人もいる。ただ、何でもいいということではなく、ある程度の実効性が第三者機関によって示されていなければならない。そこは、国交省も、「これはOK、これはダメ」という判断が出ると思う。今、空気清浄機等はデンソー製だが、幅広くニューノーマルタクシーで感染防止をして、公共交通機関を動かし続けようということが趣旨なので、それに資するものなら、ある程度の補助をいただけるということのようだ。これから、何が補助の対象になるというリストがあがってくると思う。日本交通では、空気清浄機と見える化タブレットと感染防護シールドの3点セットで入れる予定だ。ただ、見える化タブレットだけは、製造元のデンソーがいつ出していただけるか、というのが正直まだ分かっていない。もしかしたら、空気清浄機と感染防護シールドになるかもしれない。いずれにしても、揃い次第、どんどん設置していき、オリンピックまでには、基本的には日本交通グループのジャパンタクシー車両に関してはそれが付き、アプリで呼べるというところまでもっていきたいと思っている。
―― 予算については150億円と聞いているが
川鍋 300億円の内数になっている。バスとタクシーが半々と考えれば150億円になる。予算額の上限は十二分にとっていただいている。むしろ、多くの事業者に活用していただきたい。
―― 自治体との協調補助により、事業者の持ち出しを実質ゼロにする取組が始まっていると聞くが
川鍋 先日、東京都に行ってきた。そして、小池都知事に毎年、お伺いしてお話している要望事項の中に、ニューノーマルタクシーにぜひ、支援をお願いしたいということも項目に入れた。なので、ジャパンタクシーの導入のときにいただいた補助のように、国と都の両方からいただける可能性もあるのかな、と思っている。
大阪のAIオンデマンド社会実験 タクシーが受けるべき
―― 東京メトロでもMaaSを睨んだ取組もあるようだが、大阪でも大阪メトロでもAIオンデマンド交通の社会実験をしようという動きがあるが
川鍋 こうしたオンデマンド系は、我われタクシー事業者が委託を受け、あるいは直接実施するということをやっている。これは、田中亮一郎副会長が指導されているが、AIかどうかはさておき、オンデマンド交通自体は、各地で増えている。なので、大阪メトロとよく意見調整をして、しっかりとタクシー事業者がやらせていただけるようにするのが筋だと思う。それが、国交省、ひいては政治としての方向性だ。タクシー事業者が引受けなかったりした場合に、他の交通モードが役割を果たすということはあるだろう。大阪メトロは先進的な取組を行っており、そこには言うつもりはないが、そこはタクシー会社とよく話し合いをしてほしい。そうではなく、ひじょうに大きなしこりを残してしまうと、双方にとって何の利益もないと思っている。
決して皆さん、諦めずに
―― 新年の抱負を最後にお願いしたい
川鍋 コロナを乗り越えた向こうには、財務的には傷ついているかもしれないが、経営者としての考えや、従来の8割の収入で経営できる仕組みを考えたり、アフターコロナに持って行けるようなことを構築して、来年が終わってみれば、やはり復活の年になったと言えるよう、決して皆さん、諦めずに、ここを乗り越えれば、あとは戦争でも来ない限り、これ以上のダメージを受ける災はないと思う。何とか、皆さん、生き抜いて、地域で公共交通をしっかりと支え続けていただきたいと思っている。
―― 本日は、お忙しい中、ありがとうございました
写真:昨年12月の全タク連定例正副会長会議冒頭、発言する川鍋一郎会長(日本交通株式会社会長・東京)