大阪メトロAIオンデマンド交通説明会の詳細
市の補助ない社会実験 1日1両数百人が採算分岐
高齢者、障害者対応は後回し 持続可能なのか疑問の声も

2020年12月1日付・第505/210号


【大阪】大阪市生野区役所は11月27日、第3回生野区地域公共交通検討会を開いた。交通関係者からは坂本篤紀・大タ協広報サービス委員長が不公平な入札を指摘した上で、同様の事業はタクシーで可能とした。さらに事業性を問うと、大阪メトロは「1両1日数百人の利用が損益分岐」「当面は障害者対応車両は考えていない」などと答えた。社会実験に際し、大阪市など自治体からの補助はない。全自交大阪地連の加藤直人・特別執行委員は「社会実験と言うが、今後は採算を取るため、運行区域を広げるのではないか」と疑義を呈した。

大阪メトロの社会実験を進めるかどうかを検討し、決める大阪市地域公共交通会議は12月22日、大阪市北区の大阪市役所内で開かれる。

前回検討会で南タクシーが説明

今年2月に開かれた第2回検討会では、南タクシーの大岡理人社長が交通不便地域でのルート試走状況や運行経費の説明を行った。また、他地区での運行例を紹介し、オンデマンド交通を生野区で運行した場合の課題と持続可能な運行について議論した。一方、大阪市が民間事業者にオンデマンド交通の社会実験事業を募集したところ、大阪メトロから生野区と平野区で行うとする提案があり、最終的に同案が採用された。提案事業者の大阪メトログループがAIオンデマンド交通について説明し、理解を深める場とした。

検討会を主催した生野区の山口照美区長は「今までの路線バスとは違った概念を考えていきたい。ICTの発達で、いろいろな交通が生まれている。最近増えたのがシェアサイクル。今までとは、移動のあり方が変わってくる。生野の町が抱える高齢化率が高い。自転車事故が府内ワースト1という課題を持って、この1年、区民の皆さんと意見交換し、専門家から学んできた。南タクシーさんからいろいろな提案をいただいていたところに、大阪メトロさんから生野区を対象にした社会実験の話が来た。今までの乗り物の概念を一度、取り払っていただき、こんな風な移動手段があるんだ、モビリティがあるんだと知っていただき、地域に広め理解していただくことがいちばんだと思っている」とあいさつ。

大阪メトロ、MaaSの一環

大阪メトロは、MaaSについて説明。担当の竹野健治・大阪メトロ次世代都市交通戦略本部MaaS戦略推進部次世代モビリティ連携課長は「ICTの発達で、旅行に行く際、旅行代理店の窓口まで行くことなく、インターネットで予約して購入できるようになった。旅館やホテルも、楽天や一休などのサイトで予約されるようになった。我われも、新しいプラットフォーマーが入ってきて、利用者との間が分断されてしまうのではないか、という危機感を持っている。

例えば、生野から新大阪まで行く際、今はスマホで公共交通を利用した行き方が示されるだけだが、ここに全ての決済が住んでしまい、スマホをかざせば、バスにも鉄道にも乗れるということになると、全く違う世界になってくる。我われと利用者との間に新しいプレーヤーが入ることになり、どの利用者がどの鉄道やバスを利用していただいているか分からない世界になってくる。そうしたことろ避け、もっと便利に公共交通を使ってもらうため、ICT技術を我われが活用し、新しいサービスができないかと考えている。そのため、公共交通事業者がMaaSにどう取り組むかが、大きな課題になっている。

自宅から停留所まで、自宅から近くの目的地まで、自宅から地下鉄駅までの、ほんの少しの移動が住民の制約になっていて、外出を控える原因になっていないか。我われは、地下鉄や大きなバスを動かしているので、そうしたことは難しい。ドアツードアサービスということでは、タクシー業界が頑張っていて、皆さんの足を支えているということは、十分に承知しているし、きめ細かな業務メニューは、タクシー業界の方々が行っているということは承知している。ただ、バスや鉄道利用者がほんの少しの移動するのが不便ということで、外出をためらっているというのであれば、私どもが便利な手段を提供することで、少しでも外出できるような交通手段をシームレスに使っていただければ、自家用車よりも公共交通を使っていただけて、その結果、住み良い町にすることができるのではないか。そのため、オンデマンド交通に取り組みたいと考えている」と説明。

その上で、「コロナ禍でテレワークが発達し、公共交通を使う人が減った。2025年大阪万博の開催が予定されており、急に現れるピークに対し、どのようなリソースで対応していかなければならないか、ということが短期的に考えねばならない。定時定路線のバスは皆さんの外出イメージに十分に対応していないのではないか、などという反省のもと、もっと効率的にキメ細かく運行できる交通をつくることで、新たな需要を掘り起こすことができるのではないか、という点から、人工頭脳を使ったAIオンデマンド交通を提案した次第だ」と述べた。

利用の手順は、クレジット決済登録をしたスマホアプリからか、コールセンターに電話して(この場合は現金で乗車時に210円を支払う)予約し、300m間隔で設けてあるミニバス停のミーティングスポット(電柱などに黄色いテープを貼付など)まで8人乗りワゴン車が迎えに行く。今までは、バスの時刻に合わせてバス亭まで行かなければならなかった。自宅から比較的近い場所、目的地から比較的近い場所にミーティングスポットを設置している。ドアツードアのタクシーではなく、乗合バスなので、少し足労をかけることになる。

走行途中でも予約が入ったり、他の人が乗っているワゴン車に途中から乗っていく乗合スタイルを、AIが予測してルートを決める。運賃を大人210円(小人110円)と安く抑えられたのは、複数の人に乗合ってもらうことを前提としているからだ。路線バスと同じ運賃にすることで、利用者の流動性を見る。目的地の到着時刻に冗長性を持たせ、その範囲で他の同じ目的地、その目的地の近くで降車する人とも乗り合うことができるようにする。同じルート上に降車場所がある人は途中で降車できる。最短距離で移動することではない。朝6時台~夜11時ぐらいまで運行する。AIオンデマンド交通に需要があり、持続できるようなものであれば、来年3月以降も社会実験を続ける。

坂本氏 採算性に疑問呈す

こうした説明に対し、坂本篤紀・大タ協広報サービス委員長は「タクシーの特定地域協議会や準特定地域協議会で、よく大阪府、大阪市は採択を棄権する理由について、公平な競争を望んでいるからと説明している。競争原理で手に入れるということを日頃から言われている。例えば、今回のAIオンデマンド交通の公募に際し、1カ月弱の期間で、良いものができるとお考えなのか。運行時間については、6時~23時(検討中)とあるが、この時間では、運転者は2・5人が必要だ。

このコロナ禍で、8人乗りワゴン車が、もし満員になって、隣の人と接触するという認識はないのか。新しいシステムのように言われるAIオンデマンド交通は、タクシーではすでに行われており、相乗りタクシーなど複数乗る場合は、3人目からは安くなる。相乗アプリというのもある。果たして、大阪メトロが提案するAIオンデマンド交通は採算が合うのか。大阪市が1日1億円稼いでいた事業を、わざわざ民営化し、株主が大阪市なのに、わざわざ損をする事業をやるのが、本当に良いのか。横浜市バスの運転者の平均年収が800万円。50歳を超えると1300万円。それでも事業は黒字だという。大阪市では、大阪メトロの運転者募集広告を見る限りでは、年収450万円。安い仕事はつくるわ、バスは赤字だわ、その上、こうした事業を行って赤字を増やすというのも理解できない」と質問。

竹野氏は、「まさにご指摘の通りで、私どもは民間会社で、株主の配当を出すという経営責任を負っている。その意味では、この社会実験で本当に収支が償わなくて、持続可能なものでなければ、無理に続ける必要はないと考えている。一方、移動をためらっていた人たちが、この事業を行うことで、新たに外出したり、我われだけでこの事業ができないのであれば、他に手伝っていただける人と手を携えて、新しい交通、新しい市民の足を作り上げることができれば、我われが考えるシームレスな交通、MaaSの世界の中で実現させていきたい。

短期的に見て、収支が償わないのではないかというご指摘については真摯に受け止めるし、そのようにならないように、どうすれば皆さんにご利用していただけるようになるのか。コロナ禍の時期に本当に8人乗りのオンデマンドの形が正しいのか、ということも含め、社会実験をやらせていただき、それが適当なものか、可能性があれば、どのようにしていけばいいのか、一緒に考えていただければと思っている」と回答。

坂本氏は「町行くタクシーでも車イスで乗車できる。それについてはどうか」と質問。

竹野氏は「公平・公正な競争という点については、大人210円と、路線バスと同じ価格帯で運行したときに、どのような結果になるのか、ということをお諮りしているところだ。この運賃が、他の事業者の経営を圧迫するようなことがあれば、素直に受け入れ、その価格帯のあり方についてもキチンと考えたい。車イスの対応は、いろいろと検討している。

8人乗りワゴン車によるオンデマンド交通は、ただでさえ、どのくらい需要があるか分からないと申し上げたが、我われの試算でもかなり厳しい採算になるのではないかということなので、車イス対応車両の導入は、今のところ厳しいと考えている。今回、来年3月から実施する社会実験では、障害者対応の車両は導入しないとしている。申し訳ないが、車イスの人は、路線バスや他の交通手段もあるので、それは今まで通り使っていただきたい」と回答。

また、「このエリアの携帯電話のデータを使い、実際に移動がどのくらい発生しているのか、ということを分析した結果、こちらの地域では8人乗りオンデマンド交通がいちばん効率的ではないだろうか、という仮説に基づき、社会実験を提案した。その結果、仮に需要が少ないのであれば、8人乗りは最適ではないのかもしれないし、もっと多数の人に乗車してもらうのであれば、用意している6両では少ないのかもしれないし、8人よりも、もう少し大きい車両の方がいいのかもしれない。

だが、あまり大きくすると、既存の路線バスに影響が出てしまって、棲み分けをどうするか、という問題も発生する。それには、今回、まず、この形で実証実験をさせていただき、利用していただきながら、経営採算性がとれる形にできるのか、一方で、利用者にとって便利なものにするためには、『このようにしてほしい』という意見を賜りながら、こうした交通を実現させたいと思っているので、ご了承いただきたい」と答えた。

高齢者 障害者対応は後回し

坂本氏は「一障害者、一市民、高齢の親を持つ人として、どうしても、人として許しがたいことがあった。先ほどの車イス利用のくだりで、車イス対応車両を導入したら、採算が合わないから今回の実証実験には加えない。他の交通機関を利用しろ。用意されている8人乗りの車両というのは、ステップがなければ、高齢者は足を上げられないと思う。予定されているのは、ハイエースで助手席には人を乗せないというタイプのものだと思うので、今日、来られている人で、すっと乗れる人は、どれくらいいるのか。採算が合わないからやらないのか? これは、バリアフリーの考え方から、ものすごく逆行するのだけれども、一障害者で、高齢の親を持つ者として、とうてい理解できないし、ましてや民間事業者なら、なおさら許してはいけないことだと思うが、どうお考えか」と質問。

竹野氏は「ご指摘ありがとうございます。私の言葉が足りなくて、本当に失礼なことを言ってしまった。申し訳ない。私が申し上げたかったのは、車イスに乗車いただけるような車両の改造については、今、検討を進めている。その中で、3月からの実証実験開始までには間に合わないということと、どのように利用していただけるようにすれば、このオンデマンド交通が持続可能なものになるのか、という検討をしている最中で、たいへん言葉が足らずに申し訳ない。

私どもの準備が間に合わないので、3月からのサービス開始には、ご乗車いただけない形になるが、それについて最初から考えることを放棄しているのではなく、計画して検討していることなので、引き続き、意見を賜りながら、より良いものにしていきたい。バリアフリーという発想を、公共交通を担う者として放棄したように聞こえたということは本位ではないし、それについて心象を悪くしたことについて、深くお詫び申し上げたい」と回答した。

加藤氏 運行区域拡張に懸念

加藤氏は「地域公共交通会議で議論するのは、交通空白地をどう埋めるか、高齢者の外出支援をどうするか、市民の足をどう確保するのか、とうのがメーンで、各地の自治体での地域公共交通会議では、事業者だけで採算が合うような形ではやっていない。基本的には赤字だというのは当たり前。採算は絶対にとれないものという前提で考えているのでと、私は思っている。ただ、大阪メトロさんが、生野、平野で社会実験をするということの先には、結局、運行区域の拡大、シティバスが運行している全域まで広げる。

そうしないと、採算が合わないと思う。短い夏の4週間弱で社会実験のスキームを考えて、採用されたということは、少なくとも採算性を考えた上でのことだと思う。利用者ニーズは、狭い地域内での移動だけでなく、もっと遠くに行きたいというものだと思う。そうすると、結局は運行区域の拡大ということになっていくと思う。タクシー関係者として、運行区域拡大となると、競合になると懸念している」と質問。

竹野氏は「短い提案募集期間に、こんなものをよく提案できた、という質問の一つだと思っている。それに関しては、大阪メトログループとしては、地域経営構想を数年前から公示しており、その中で、MaaSというものに取り組んでいる。いろいろな交通機関をシームレスにつなぐことによって、自家用車ではなく、公共交通を使っていただきたい。もしくは、外出をためらっていた人が、気軽に外出していただくための公共交通を使っていただくことを、我われも商売なので、その意味では我われのビジネスとして広げていきたい。

翻って、皆さんの移動のお役に立てれば、という世界観をもっている。よりご自宅の近くまで、最寄りのバス亭まで距離があり、外出をためらっている人がいるなら、そこを担えるのはオンデマンド交通ではないかと準備を進めてきた。その意味では、応募期間が短くても、もともとオンデマンドをどうしたら大阪エリアで展開できるか、ということを考えていたので、このタイミングで提案した。エリアは、今回、地域でやりたいと思っているが、平野と生野で運行実態を確認しながら他地域でも受け入れられるのであれば、他地域に広げるのはやぶさかではない。

逆に、私どもだけでそれができるのか。障害者対応で、私どもだけでできないのであれば、他の手を借りて広げていきたい。私たちだけが、地域交通を支える手段だとは考えていない。他の交通機関と手を携えて、シームレスに皆さんの移動を支えることができれば、それで移動全体が膨らみ、ひいてはビジネスにつながるのではないだろうか。それを実現できるのがMaaSではないかと考え、検討している。私どものオンデマンド交通というのは、実証実験のためにやるのではなく、MaaSを実現するための重要な機能としてやりたいと思うので、実証実験に手を上げた」と説明した。

1日1両数百人利用が採算分岐

坂本氏は「一体何人のせて、どの車両をどう動かしたら採算が合うのか。車イスは他の事業者に頼みます、では、血の通った言葉とは思えない。金儲けするのが民間事業者なんでしょ。だから、金儲けができて、採算が合うところしか動かしませんとしか聞こえない。今、聞きたいのは、何人乗せたら採算が合うのか、聞かせてほしい」と質問。

質問からしばらくしてから回答することに、竹野氏は「手元に数字がないので、どの数値をご回答すればいいのかということに時間を要したことをお詫びしたい。今回のオンデマンド交通は、1日数百人のご利用があれば採算が合うのではないかと試算している。ただ、コールセンターや他の要素でコストがかかるようであれば、もしくは、我われが想定しているような乗合が実現できないのであれば、今申し上げた数字では厳しいのではないかという思いもある。少なくとも、1日数百人のご利用がなければ、持続は難しいのではないかと思う」と発言した。

写真:上=説明会で大阪メトロが説明した「ミーティングスポット」のイメージ
下=配車アプリのイメージ