大阪市・大阪メトロのAIオンデマンド交通社会実験 形態を疑問視
末満・近運局自交部長「ほぼタクシーに似ている事業なのでどうか」と疑義
牛島・大タ協経営委員長代行「社会実験はタクシー事業に影響大」と怒り

2020年11月21日付・第504/209号


【近畿】大阪メトロ(シティバス)が大阪市平野区と生野区で来年3月から1年間、「8人乗りワゴン車」計39両で行うAIオンデマンド交通社会実験は、大阪のタクシー業界には敵対的に映っており、大きな波紋を呼んでいる。こうした流れの中、末満章悟・近運局自交部長は11月19日の定例会見で、本紙の質問に、次のように答えた。

社会実験では、現行路線バスと同様の大人210円、小人110円の運賃を収受するなどで進めようとしていることに対し、「市のパブコメでタクシー事業者数社から反対意見が出ているのは承知している。社会実験はタクシーに似た形態なので、どうなのかという認識だ。実施主体の市と大阪メトロは、反対意見を出した事業者に対し、問題が無いように丁寧な説明を行い、公共交通会議でも理解が得られるようにしなければならない。理解が得られないまま12月に予定される地域公共交通会議が開催された場合には、近運局としても、ほぼタクシーに似ている事業なのでどうか、ということは当然、認識している。これまでに市や大阪メトロが説明しに来たときにも、タクシー協会と調整しなければダメだと言っている。もし、このまま地域公共交通会議が開かれれば、運輸局として市と大阪メトロにそのような話をする。ある程度説明をして、パブコメを出した事業者の理解が得られていれば、我われも言うつもりはないが」と、市と大阪メトロが平行線をたどるなら公的会議で指摘する考えを表明した。地域公共交通会議には、大阪運輸支局の担当官、大阪タクシー協会から古知愛一郎副会長(梅田グループ代表、地元事業者)、坂本篤紀・広報サービス委員会委員長(東宝・日本城タクシーグループ代表)が出席する予定。

一方、大阪タクシー協会でも論議の中心となった。牛島憲人・経営委員長代行は11月20日の理事会で、「大阪市平野区と生野区で大阪メトロが受託運行するAIオンデマンド交通社会実験は、大阪メトロの提案によると、運行時間帯が午前6時から夜11時台、8人乗りワンボックス車両が最大39両というものだが、これに対し、当該事業者に情報提供と意見提出の案内を行った。協会の他、事業者9社も意見提出を行った。また12月開催予定の地域公共交通会議への出席要請を行った。委員からは、『8人乗りであれば、タクシー会社が運行するものだ。1人でも運行され、時間帯も早朝から深夜におよぶものであれば、影響が大きい』などの意見が出て、協議した結果、理事会で意見を求めることが了承された。これは私見だが、大阪市が広報したのは8月の1カ月弱。それも何の知らせもなく、電話は1本あったらしいが、意見募集も20日間、何の周知もせずに打ち切られた。大阪市は規制緩和と言っておきながら、実質的な子会社である大阪メトロを念頭に置いた無理筋な計画を推しているように感じる。このことに関する地域公共交通会議に協会として出席するので、意見をいただきたい。運賃改定については、初乗短縮の効果がどうだったのか、コロナ禍で情報が不足している。初乗短縮しなかった事業者がどれだけ乗り控えされたのか、初乗短縮した事業者が短縮に匹敵するだけの利用者が増えたのか、今後はその辺の効果を検証する必要がある」と述べた。

また、坂本篤紀・広報サービス委員長は「大阪市が計画する社会実験は、乗合いということで、車両の大きさは問うていないはずだが、問題は1カ月弱で社会実験実施事業者の募集を終わらせるという暴挙に出ている。私は募集にあたり、阿倍野区でグリスロの計画を立てたが、とてもではないが、それをやろうとすると、半年、1年がかりになる。それを1カ月で締め切ってしまうというのは、排他的扱いとしか考えられない。しかも、採算度外視の210円だ。これに危機感を持たないタクシー会社がないのは不思議なくらいだ。力の強いところが、巨大民営化という名のもと、民間事業者になり、採算度外視の商売をしている。しかも安売りをする。何か文句を言わないと収まりがつかない。これと地域協議会の立ち振る舞いは危険だという話に全部つながる。今後は、仲良く大阪府や大阪市とやっていけないような気がする」と感想を述べた。これに対し、牛島氏は「全く同意だ。公共交通会議で、採算問題についても議論されると思うが、採算が本当にとれているのか、精査する必要があると思う」と回答した。

これらのやり取りに呼応して、大沼仁洪理事は「国政は公明党が自民党と連立政権を行っている。大阪は維新だが、公明党との関係は良好だ。社会実験を行うにあたり、公明党を巻き込んだ反対運動をするのが効果的ではないのか。政治連盟としても取り組んでほしい。事業者だけで取り組んでも、あまり良い結果が出ないような気がする」と提案、理事会で了承された。

写真:上=末満章悟・近運局自動車交通部長
下=大阪タクシー協会理事会冒頭、坂本栄二会長があいさつ(中央)