全タク連地域交通委員会 10年で交通不便地域大幅縮小
田中委員長、MaaSの活用含め地域交通基盤強化を強調

2020年10月1日付・第500/204号


【東京】全タク連は9月28日、東京都千代田区の「自動車会館」で、地域交通委員会を開いた。

冒頭、田中亮一郎委員長(第一交通産業社長)は「私は、地域交通委員長に就任して10年になった。10年前、国から『交通過疎地域、交通不便地域が全国に6000カ所ある。これを何とか埋められれば、タクシーも生き残れるのではないか』という話があり、今では5000カ所近くを埋めている。まさか、そのような状況の中、コロナ禍が起きて厳しくなるとは、皆さんも夢にも思っていなかったことと思う。

ただ、地域交通を2年間行ってきた中で、コロナ禍の影響による売り上げの減少もあったが、地域交通利用者数はあまり減っていないという感触を持っている。それだけ、必要な手段として、おでかけ交通や地域交通が認められていると思っている。

本日は国交省の土田宏道・総合政策局モビリティ推進課企画官が講演されるが、MaaSとは、インバウンドの利用者がどんどん入ってきて、国内津々浦々まで行くときに不便のないようなシステムを作りたいというのが出発点だったと思う。

しかし、今のように海外からコロナ禍でなかなか入国できないという状況の中、少し方向を変えていかないといけないのかな、という話を各方面の人たちとしている。あとは、皆さんのご協力で埋めて来られた5000カ所の地域で、MaaSを組み合わせながら、例えば、おでかけ交通にも外国人観光客が乗ってもいいのではないか。このようなことを少しずつ考えながら、まずは地域の交通手段をしっかりと整えていかなければならないと思っている。新たに何かをするというのではなく、我われの生活手段に少しだけプラスアルファでMaaSを組み合わせるということで、やりやすい環境になるのではないか。

私の会社の第一交通産業グループでは、お出かけ交通は全国で165地域ぐらいだったが、今年3月ぐらいから激増して230地域線と、65地域増えている。路線バスなど、これまでの公共交通機関が休日ダイヤで運行され地域住民が不便を感じる中、市町村がエッセンシャルサービスとしてのタクシーを地域交通として意識している現れなのかな、と思っており、今がチャンスだと思っている。

皆さんも、それぞれの営業区域で、しっかりと自治体と連携しながら、MaaSでインバウンドによる国内観光に取り組めるような仕組を今のうちに地域交通でつくっていければ、地域のタクシーは生き残れるという実感を持っている。何とかこの時期を乗り越えて、地域を守っていく取組をするようお願いしたい」と述べた。

講演では、土田宏道・国交省総合政策局モビリティ推進課企画官が「MaaSの最新動向について」をテーマに語り、「フィンランド発祥とされるMaaSは、出発地から目的地まで、何をどう使って移動したのか、線で追うことにより、移動に関する豊富なデータが集まる。日本版マース推進事業の実証実験は今年で2年目。38地域で実証実験を行う。企業間、自治体間で異なる連携データの形式やルールを確認し、来年3月にガイドラインを策定する。データのプラットフォームをつくる。目的地におけるサービスと連携し、成果が出るよう地域にアプローチする。

今、AIオンデマンド交通を実施する事業者、キャッシュレス決済に取り組む事業者に支援をしている。コロナ禍による新たな生活様式の実践により、企業はウエブ会議などが多くなり、通勤通学利用者は以前ほどの量ではなくなってきた。コロナ禍対応は、MaaSの実証実験で手がかりを探っていく。例えば、リアルタイムの道路混雑や鉄道客室の混雑状況を把握してクラウドにアップするなどのシステム構築について、第2次予算で100億の補助が組まれている。

地域公共交通活性化法が一部改正された。地域に民間事業者が多いため、アナログで束ねるのがたいへんな作業になる。今後は地域でリーダーシップをとる事業者がいなくなることも考えられ、協議会制度の活用が一つのテコとなる」などと述べた。

質疑応答で、田中委員長は「地域公共交通活性化法の説明では、バス・鉄道の活用が主に入っているが、タクシーがこの中に入るための通達は発出されるのか。基盤整備ができていない」と質問。

土田氏は「地域でタクシーが入っていないと片手落ちだ。通達の発出が可能かどうかは難しい面もあるが、タクシーに声がかからないきらいがある」と答えた。

これに対し、田中委員長は「タクシー営業所がない地域がある。それぞれの県に声をかける仕組をつくってほしい。例えば、京丹後市では通達に基づいた制度を履行する中で、結局ライドシェア(ウーバーアプリによる協議会登録自家用車の配車)が入ってきた。そうしたことにならないよう仕組がつくれないか」と質問。

土田氏は「それは、今までになかった視点だ。持ち帰って検討したい。メンバーの一人として参画するケースもあるので、検討したい」と答えた。

(本紙注・京丹後市の場合は、市が直接、市内のタクシー空白地域以外で営業している地元タクシー会社を協議会メンバーに入れていたが、京都府タクシー協会との連絡体制が密ではなかったため、タクシーメンバーは声を大にして反対を発言することはなかった。しかし、このメンバーはその後、協会や近畿運輸局に相談している。地方の事業者まで正確な情報が伝わっていなかった例として教訓になっている)

田中委員長は「災害時の高齢者の避難移動に地域交通を使うことができないか。そのためにMaaS活用ができないかという論議がある」と報告。これに対し、土田氏は「公共性の高いMaaSは必要だ。民間に任せると商業に特化したMaaSでは弱い。防災MaaSも考えたい。円滑に避難できる経路をプッシュできる。集めたデータを軸に据えられる可能性がある」と答えた。

関上義明・国交省自動車局旅客課地域交通室長が「地域交通を巡る諸情勢について」をテーマに講演。「過疎地等で市町村が行う自家用有償旅客運送ではバス・タクシーが運行管理、車両管理で協力する制度を創設。運送の安全性を向上させつつ、実施を円滑化するのが目的」

「ライドシェアの問題点では、自家用有償旅客運送制度の活用というと、白タク、ライドシェアを増やすのではないかと言われるが、一貫してライドシェアは否定している。地域公共交通会議では、関係機関との合意の上運行するので、ライドシェアとは異なる」と強調する一方、海外のライドシェアは雇用関係がないことから争議が起きているなどとして、国内では(国産を含め)ライドシェアは存在しないとの認識を示した。

質疑応答では、田中委員長が「自家用有償旅客運送は地域公共交通会議での合意が必要ということに変わりはないか」と質問。関上氏は「スキームは変わらない。より一層活用しやすいようにしてある」と答えた。

写真:上=演する国交省の土田宏道・総合政策局モビリティ推進課企画官
下=講演する関上義明・国交省自動車局旅客課地域交通室長(中央)