田中亮一郎 第一交通産業グループ社長に聞く
コロナは薬できるまで我慢 おでかけ交通の路線激増
電脳システム購入 完成後はNo.1で広める
2020年9月21日付・ 第498/203号
【福岡】第一交通産業グループの田中亮一郎社長(全タク連副会長、地域交通委員長)は9月8日、急速に需要が増大した、おでかけ交通、お墓参りサポートサービスの反響や、このほど立ち上げられた一般社団法人XTaxi(クロスタクシー)への言及、地域の取組に対する全タク連への要望など、本紙のインタビューに次のように答えた。
佐世保は百%越えの戻り
何と言っても、売り上げが全部でなくても、9割ほど戻ってくるという兆しがないと、前向きなことは皆さん、なかなかできないのではないだろうか。
当社グループの佐世保の例だが、すでに前年同期比で100%を超えている。これは、当社グループが頑張っているということもあるが、地域が我慢しきれずに、経済が動き始めたということが挙げられる。ただ、サービス業を中心に商社や契約でものごとが進められていく仕事では、テレワークや出社制限、5人以下のグループを組むなどということが決められているから、そこは戻りが遅い。
そうではなく、物を作らなければ、商売が成り立たないような地域では、前年同期比で7~8割ほど戻ってきている感がある。
今年、おでかけ交通が激増
おでかけ交通は、以前は130路線ぐらいだったのが、今では200路線を超えている。新型コロナウィルスが増え始めた今年初めごろからだが、それをもっと増やそうと思っている。それから、ナンバーワンネットワークに入っていただく会社が増えている。
やはり、苦しいときには、皆で何かをしないといけない。当社グループでは、3月決算だったので、そこは何とか成り立った。しかし、4月以降は、給与手当を先に1万数千人分を出している。10~20億円出ているので、4~6月の第一四半期は厳しかったが、第二四半期の7~9月で、第一四半期の遅れを取り戻さないといけない。
タクシーは7月単月 黒字
タクシーは7月は単月でキャッシュフロー黒字になったから、この3カ月は黒字になるだろう。しかし、バスはちょっと厳しい。特に観光バス系が月間3000~4000万円のマイナスになっている。そうしてみると、元に戻るには1年半はかかると見ている。
不動産はそんなに悪くはない。グループ全体から見ると、交通に偏っていたものを、この7~8年で、交通を縮小せずに、その他の事業を増やしてきたものが、ようやくプラスに転換する起爆剤になった。やってきて良かったと思っている。
ただ、大企業などではテレワークが中心となってくるから、利用者が望む場所が違ってくるような気がしている。駅の近くの需要は変わらないだろうと思っている。今年まではそうだったが、来年からは様子を見ているので、あまり仕入れはしていない。
大企業がうかがう首都圏の7000万~8000万円の物件の売れ行きだが、コロナ禍で自分の会社がどうなるか分からないということもあり、賃貸にシフトするということが一時的にある。自分の会社の状況が分かれば、また元に戻るという繰り返しになる。
始めたばかりのこともたくさんあった。中国の旅行会社、ミャンマーの日本語学校も70人を日本に迎える予定だったのが、来られなくなってしまった。そうした始めたばかりの海外の仕事で海外から人が来られなくなっているが、ミャンマーやインドの事業は、あともう少しで黒字になるところまで来ている。
これらは今後、それぞれの国が持ち直せば、たぶん黒字化するだろうと思っている。
コロナ 薬できるまで我慢
新型コロナウィルス感染症に対しては、とにかく薬ができて、インフルエンザと同じような扱いになるまで我慢するしかないと思っている。ただ、新型インフルエンザのときも、特効薬ができるまで2、3年はかかった。
考えてみれば、SARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)があったから、日本でインバウンドに火が付いたという経緯もある。そうした感染症が海外で発生したため、中国や韓国の人たちが日本へ来るようになった。
そうした海外からの人たちによる団体旅行が、いつかは個別旅行になるわけだから、今のうちにどのような用意をしておくかということだと思う。ゼロになるということはないと思う。
GoTo 観光地活性が先
GoToキャンペーンでタクシー業界が潤わないというのは、今は仕方がないと思う。当社のバスやタクシーがお迎えに行く観光地が死んでしまったら、仕事がなくなってしまう。だから、そうした観光地に生き延びてもらわなければならない。その地域が、苦しいけれども、生き延びてもらえれば、またそこに人が来る可能性がでてくる。
お金はほしいが、クーポンの3000円や4000円の部分しかタクシーはもらえない。なので、今はそこへ行く利用者の送迎をキチンとするということなのだろうと思う。新たな仕事というのは皆が考えている。例えば、IT系はゲームだとか、実態があまりないようなものや、家にいてできるような仕事がプラスになっているのだから、そこをうまく、どの業界とでもいいから一緒になって考えていく。
DeNAやソフトバンクは、4月以降の売り上げベースから言うと、配車アプリを縮小しなくても良かったほど儲かっている。あの業界は、そうなんだろうと思う。いつも言うが、ダウンロード数だけはないと思う。どの会社のアプリがどれだけダウンロードされたかではなく、そのダウンロードされたアプリを使って、どれだけ配車をしたのか、売り上げが上がったのかと思う。
例えば、ダウンロードしたら500円クーポンがもらえると宣伝したら、誰でもするだろう。しかし、本当にそれが、タクシーを使っていただけることなのか、ということなのだろう。日本が海外と違うのは、働いている人は、個人事業主であろうと、しっかりと最低賃金分は働く。海外ではシェアしようという感覚があるが、その感覚は日本には、まだないような気がする。
Uイーツは利用者目線か?
ウーバーイーツでも、以前はバイクを使う人が多かったが、今は東京でも、ほとんどが自転車だ。そうすると、雨が降ると配達人数が減る。大雨が降ったり、夏の暑い日などは、東京でウーバーイーツを頼もうとすると、「近くに配達人がいません」と出ることがある。お店は開いているのに、配達人がいないということになる。
これでは、お客様目線ではない。そこのところを、日本人が理解すれば、ウーバーイーツは流行るだろうが、それよりも出前館などは時間がかかっても配達すると言ってくれる方が、利用者にとってはありがたい。
自らがお店に出向きたくないから配達を頼むのであって、配達する人が面倒だから配達しないというのでは成り立たない。日本の今の国民性はたぶん、そういうことを望んでいるのではないだろうと思う。しかし、今の20代、30代の世代には、そうしたことが当たり前だとやり過ごすことができる人がいるかもしれない。
サービスする人の都合で動くというのは、ライドシェアも同じことだと思う。
タクシーで乗車拒否すると違法行為になるが、ライドシェアはそうではない。ダイナミックプライシングで値上げすることもできる。そのようなハッキリしないものに、どれだけの人が利用するのか。また、地方では単価が相対的に安くなるので、その安い単価に自分の余った時間をどれだけ提供する人がいるか、ということだと思う。
利益低い産業での事業性
そこなんだと思う。ライドシェアも同じで、回数で稼げる都会でないと、成り立ちにくいといような気がする。同じライドシェアでも、相乗りのような形の方が、地方では発達するような気がする。
乗合バスもそうだが、安い相乗りのような形態には、利用者は景気が良くなっても戻ってこないのではないか。
タクシー出前サービスも、恒久化と言っている。でも、貨物自動車事業の許可を取らなければならないようになる。タクシー出前サービスも、例えば、生の肉は食品衛生法上、運んではいけないのだろうと思うが、今は平気で運んでいるようだ。
もともと、交通系の利益は10%いかないのに、売り上げが3割落ちている。雇用調整助成金などで、15%が返ってきているからなんとかトントンになる。当社グループも経費削減をしているが、もともと利益率の低い産業だから、どこに本来の事業性を見出すか、ということだろ思う。ならば、トントンでも、おでかけ交通のようなことを、どんどんやっていった方がいいのかな、と思っている。それ以外の地域で、料金が取れるような仕事をしたい。
墓サポ好調 賛同運転者増
当社グループでは墓サポ、お墓参りサポートサービスを始めた。最初は「へえ、そんなことやるの」といった反響だったが、あれは、売り上げが高い。1回あたり、1万数千円の売り上げになっている。やってみて分かったことは、地元の人が多いということだった。北九州市だったが、北九州市の利用者からの問い合わせや利用が多い。
当初考えていたのは、お盆やお彼岸に遠方からの移動ができないから、そうした利用があるだろうという予想だったのだが、たしかに問い合わせはあったが、蓋を開けてみると、そうではなかった。地域の人が望むことで、道運法違反にならないのだったら、やるべきだろう。代りにできる人がいないのだから。だから、ついでにできる仕事をどんどん取り込んでいくべきだろう。
運転者たちも、嫌々やるのではなく、会社がそのようなサービスを始めたら、それに賛同してくれる人たちの売り上げがどんどん上がってもらえれば、「よし、私もやってみよう」という運転者が他にも出てくるだろう。
現場を激励 目配り 気配り
やはり、そこの営業所の管理職が、いかに運転者らの声を吸い上げ、それを本社がうまく商品化していくことなんだろうと思う。今回の台風のときもそうだったが、佐世保では、他の事業者が休んでしまったから、朝の時間帯に利用者が待っているきから出たいという運転者に対し、社長が奥さんと一緒におにぎりをつくって運転者たちに配って頑張っていたら、ものすごく売り上げが上がっていた。そういうところだと思う。
そうした取組を、本社の人たちが知ることだと思う。そうして頑張っているのだと。それに対し、激励の言葉をかけて、「本社もそれを見ているよ」ということが、いかに当該営業所の皆に伝えていくか、伝わるかということだと思う。
XTaxi 互助会的に
一般社団法人クロス・タクシーが設立され、京都でイベント会議が行われたそうだが、実際には互助会的な立場で動かないといけないのではないか。何かを代行するという意識ではダメだと思う。
例えば、コンビニも大手3社があるが、それぞれ特色があり、違う。伊藤忠商事がファミリーマートを完全子会社化したが、伊藤忠の強みをコンビニでどう生かしていくかを考えないといけない。
その理由は、セブンイレブンやローソンに勝てないだろうと考えたからではないだろうか。直結していけば、伊藤忠傘下には、いろいろなグループがあるのに、その強みを生かし切れいていなかったということなのだろう。
ファミリーマートは、伊藤忠の子会社からスタートしているから、いつまでも子会社のままということではなく、伊藤忠が自分たちの事業としてやろうとすれば、あのようなやり方になるのだろうと思った。セブンイレブンにしても、イトーヨーカドーの子会社だったが、セブン&アイ・ホールディングス傘下の対等子会社になってそれを超えた。それは、イトーヨーカドーの強みとコンビニの強みをいかに組合わせたかだと思う。
だから、今のままでは2番手、3番手のままなので、親会社がてこ入れをしたということではないか。
タクシーにおいても、同じことが言えると思う。生活様式の変化で、これからは、車両数は従来のようには必要ないということになるかもしれない。そうしたときに、そこで、どれだけ残れるか、ということだと思う。
今までは、100あったパイが70に減り、その70を20から50にするなどして、うまく再編してやっていかないと、総売上は当然、落ちてくるわけだから、当社グループも売り上げや利益が落ちてくるので、自分たちで絞り込んでいかないといけない。
かといって、各社が一斉に減車しても、小さなところが集まるだけになる。そうなら、「一緒に何かをやりませんか」ということになる。
№1 地方個タクと協業も
ナンバーワンネットワークは、当社グループが直接できない地域があるから、そこを何とかしたいということだ。フランチャイズとも違う。
一方、フランチャイズ化するなら、当社グループに入れば、このような利用者が増える、このようなサービスが受けられる、ということがないと単に会社が大きくなるだけだと思う。
法人がキチンとしないと、無線組合で統合される個人タクシーがたくさんできるのではないかと思っている。車両の色は統一されているが、中身は個人タクシーというようなものができないように、それぞれの地域で法人がしっかりとやらないといけない。だが、そんなに簡単にはそうならないとは思うが…。
地方での個人タクシーとの協業はありだと思う。ナンバーワンネットワークに入ってもらってもいいと思っている。法人ではできないことができるというもある。
電脳システム購入 №1で
実は、当社グループは、電脳交通にアウトソーシングしたのではなく、システムを買った。電脳交通のシステムを買い、北九州で当社が三重や和歌山のグループの配車を行っている。例えば、和歌山の田舎で、無線のために一人夜勤を置いておくのではなく、北九州には24時間電話番がいるので、電話番号が分かれば、和歌山のどこの誰から配車要請があったかが分かるシステムになっている。
それがキチンとできるようになったら、ナンバーワンネットワークで広めていけば、電脳交通の分身のような形になるだろう。
一方、クロス・タクシーはナンバーワンネットワークと同じようなことを全国でやっていこうということなのかもしれないが、当社グループとしては、全国的な視野に立つと、足りない地域がある。
地域の取組 全タク広めよ
北九州市は補正予算で、タクシー1両あたり4万円、福岡県も1両あたり1万円、合計1両あたり5万円の補助を出すことになった。
そのようなことを、それぞれの地域でやっている。
全タク連も福岡では、このような取組が行われている、ということを言わなければならない。
先日も高知県須崎市で3社しかない地域だが、その3社が同時廃業するので、商工会議所が主導して新会社をつくって地元の足を守るということを打ち出した。
それは、地元の足を残すための一つのやり方だと思う。 (談)
写真:本紙のインタビューに答える第一交通産業グループの田中亮一郎社長