田中亮一郎 第一交通産業グループ社長に聞く
未曾有のコロナ禍 タクシー業界はどう脱出するのか

2020年7月11日付・第492/197号

【福岡】第一交通産業の田中亮一郎社長は7月1日、北九州市小倉北区の第一交通産業グループ本社で、本紙のコロナ禍におけるタクシー事業に関するインタビューに、次のように答えた。

コロナ禍 地方から回復

これをしたらいい、これをしたから頑張れるというものがなく、精神的なダメージを受けている。会社として、1年を通して赤字にならないには、交通運輸産業は厳しいけれども、皆で頑張るしかないという気持ちだ。

あとは、社員が生活できるようにしないといけない。何かがあったときに、よし、皆で頑張ろう、という態勢をつくっておかなければならない。営収の戻り方は、思ったよりも早く戻ってきている。4、5月ごろは、前年同月比20%、30%ぐらいしかなかったのが、6月に緊急事態宣言が解除され、外出規制が解除された後でも、40%ぐらいまでしか戻らないのでは、と思っていたが、地方部から60%、70%と戻ってきた。今は都心部でもそれ以上の戻りがあるが、厳しいときもあった。その地方からの回復というのが、せめてもの救いだ。

かといって、全体が戻ってきていないから、業界の総売上は落ちているのだと思う。地方のひとつの例だが、佐世保は90%以上、戻っている。佐世保という都市は、大きな会社がなくて、地元の中小企業に地元の人を中心に通勤していた。だから、そこの企業が再開すれば、交通も動いた。しかし、東京に本社があり、地方に支社や営業所がある、全国規模の大企業は、そこまで利用が戻っていない。ビジネス用の移動需要と、そのビジネスの人たちが利用する夜の飲食で使われる需要があるが、そうした需要が完全には戻っていない。

けれども、トータルで何パーセント戻ったと言っても、元が違うので、一概には比べられない。実働日車営収で6万円あげていた人が60%戻ったというときと、2万円で60%戻ったというときでは、タクシーの利益率は数%しかないので、売り上げが10%下がったら、経営は厳しい。それを、どこまでカバーするか、ということだ。

当社グループは、4月のマイナス幅は前年同月比で半分、5月はその半分になった。6月はまた、その半分になる。今のまま続き、再度、緊急事態宣言が出なければ、9、10月ごろには元に戻るぐらいになるだろう。とにかく、対策は、さまざまなことを実施している。

外出の自粛要請に応じ、仕事を休んだ人たちの休業補償や車検もそうだが、伝えるべきことは、細かく伝えた。今は、前向きなことに取組んでも、できるはずがない。そうなら、出血を止めるためにどうしたらいいか、ということになってくる。

復活したときに運転者にいてもらわなければならないので、やめた人はいない。逆に、沖縄の運転者数は5%ぐらい増えている。周りの会社が潰れたりしたからだ。その人たちを受け入れ、今、研修を行っているところだ。

沖縄海路 バス並運賃で

沖縄では、7月1日から、那覇~本部間を75分で結ぶ高速定期航路を開始した。もう少し、観光客が増えてきたら、北谷便も追加する。それも、ワンコインで乗船できるようにしたい。バスだと、そのくらいの運賃だ。那覇~本部間は、路線バスで2500円ぐらいの運賃だ。今、那覇~本部間は大人3000円運行しているので、もう少し安くして、バスと同じ運賃にしようと思っている。

高速定期便はまず、地元の人たちに気軽に乗ってもらえる速い乗り物にしなければならない。第一マリンは、沖縄のグループバス会社とは別の会社だが、私は海上バスだと思っている。陸の他に、海に一本バス路線が増えたということだ。その感覚からすると、3000円や5000円では利用してもらえないだろうということだ。

北谷まで路線バスだと540円なので、船は500円、本部では乗り場を作っていただいたので、キチンと船を着けることができるが、北谷には船着場がなく、満潮のときにしか着けることができない。だから、浮桟橋のようなものを作らなければならない。

イノベーション2020

イノベーション2020は、新型コロナウィルス感染症拡大が全国に広がる前の2月にスタートさせた。当初は、第一交通産業グループ60周年の一環として、東京オリンピック・パラリンピックが今年7月に開催されることを見込んだ上で企画した。今、当社ではネットワーク推進事業を行っているが、今までは、タクシー事業者とやっていたが、今度は、デンソーやトヨタとも組むことになっている。おでかけ交通、買い物代行、ママサポートなど、そのような今やれることを、恒久的にできるように基礎を作ろうと思った。

ただ、今はコロナ禍で、利用者がいない。だから、今のうちに行政・自治体と一緒に研究したり、実証実験をしたりするしかない。

西鉄がバスを使って地域交通をやっているが、あれは当社グループが加賀でやっていることと一緒のことだ。でも、加賀でやっていたら、ニュースにはならない。今、加賀でやっているデマンド交通を北九州でやろうか、という話もある。先日、JR九州と西鉄が、当社グループと組みたいと言ってきてた。

タクシー出前サービスは今、全国的に9月末までできるようになっている。それを恒久的にやろう、ということになれば、貨客混載のようになっていくだろう。だったら、今のうちに、どこと組むか、スーパーなのか、出前館なのか、ウーバーなのかを考えていった方がいいと思う。

DiDiのタクシー出前サービスは、福岡でやることになるだろう。そのように提案している。配車アプリサービス事業は儲からない。だから、タクシー会社が配車の必要性がある中で、アプリ配車をやるならいいが、あそこまで設備投資をしてやるのは、単価がかかるわりには儲からない。だから、当社グループは、ウーバーが撤退するかもしれない、DiDiがどうなるか分からないという中、組めるところと組むということになった。

今は、このような時期だから、モタクを強化しようと思っている。あるいは、モタクプラス地域のどこかと組むとかを考えている。今度、やろうと思っているのは、お客様が選ぶ配車アプリで、モタクを選ぶか、どこを選ぶかなどメニューを増やし、広島方式で、モタクとウーバーが一つの画面で選択できるようにしていきたい。(談)

写真:インタビューにこたえる第一交通産業の田中亮一郎社長