本運賃改定延期・継続審査決定にはびっくり
警鐘は鳴らしていた 運賃改定には慎重さが必要
田中亮一郎・第一交通産業社長に聞く

2019年9月11日付・第468/173号

田中亮一郎・第一交通産業社長

【福岡】全タク連副会長、地域交通委員長、九州乗用自動車協会会長で、第一交通産業社長の田中亮一郎氏は9月6日、北九州市小倉北区の第一交通産業グループ本社で、全国53地域から申請されていた本運賃改定が継続審査となり、10月1日からは消費増税分を運賃転嫁した運賃改定だけが認められたことに絡み、本紙の質問に次のようにコメントした。

全国各協会から運輸局に早期運賃改定実施の要請書を

本紙  このような緊急事態に、どうしてすぐに正副会長を招集して対策を考えるなどの対応をしなかったのか、という疑問の声もありますが…

田中  一見自動車局長が各運輸局長に電話して、このような形になったことを説明しているので、おそらく、それ以外に打つ手が思いつかなかったのではないでしょうか。

ただ、10年あまり前、東京は物価安定政策会議で運賃改定が押し返されたという経緯がありますが、それと同じようなことと感じています。

だから、昨年末の全タク連正副会長会議で、10月ぐらいから各地で運賃改定申請が提出され始めていたことで、なるべく消費増税前3カ月から半年の間に決着を付けておかないと、思わぬ事態が起きる可能性があるということは、一応言いました。

その後、ライドシェア対策の追加9項目の策定があったり、最近で言えば、事前確定運賃だどが出てきたので、そこまで手が回らなかったのかもしれません。

これから先のこともやらなければなりませんが、運賃はタクシーの生命線だから、各地域の協会が、もう少し早い目に運賃改定をスタートさせるべきだった、というのは、業界側の話です。今までの流れからすると、普通に7割ルールに適合すれば、そのまま審査が進み、通るだろうと皆さん、思っていたのだと思います。それが、このような結果になり、びっくりしているのが実情なのだと思います。

ただ、物価問題に関する関係閣僚会議は、東京23特別区・武三地区の運賃を審議する場なのに、全国から申請のあった運賃改定にストップがかかったというのは、すごく残念です。それぞれの地域では、売り上げも違えば、前回運賃改定を実施した時期も違います。初乗り短縮の距離にしても違いますね。

仮に、10月に消費増税にならなかったとしても、運賃改定については、それぞれの地域が考えて、必要なことには対応する、ということをしないと、あそこの県が出した、ここの県が出したということで、それなら、うちの県でも、というのでは、なかなか難しくなっているのだと思います。

そうすると、端からは一斉に値上げしたように見えてしまいます。タクシーは地域公共交通と言われていますが、その公共料金が上がるということになるので、便乗値上げと言われる可能性は大いにあったのだと思っています。

ただ、このような結論が出てしまったので、なるべく早く継続審査の結論を出してもらい、それぞれの地域の実情に応じた運賃改定を進めていただくしかありません。

全タク連は国土交通省に対し、要望書を出しましたが、同時に九州ではすでに始めていますが、各県の協会長名で、地域事情を踏まえた要望書を出してもらい、それを九州乗用自動車協会として提出しようと思っています。

本紙  今回、本運賃改定がなされなければ、経営できないという声も届いています

田中  物価閣僚会議が、どのような内容だったのか、というのは知り得ませんが、全タク連としては、昔あった運賃問題特別委員会のようなものを、会長主導で立ち上げていただき、これからの運賃制度のあり方を考えていかないと、ダイナミックプライシングの問題にしても、事前確定運賃にしても、相乗運賃にしても、本運賃がベースになっていますから…

第三者機関や諮問委員会を立ち上げながら、それぞれの県単位で、独自に運賃をどうするのかを考えていかないといけない時代になってきたように思います。

本紙  運輸局から説明を聞きましたが、運輸局自身も分かっていないところがあるようでした

田中  たぶん、運輸局はそのまま公示しようと思っていたのではないでしょうか。だから、寝耳に水だったのだと思います。

運賃を上げなければならない理由というのはあると思います。IT化しなければならない、UDタクシーも入れなければならない、という状況の中、もう数年も経てば、今のタクシー車両はボロボロになります。そのとき、それまでの車両価格よりも100万円高い車両を購入しなければならなくなります。そのようなときが来ることを想定して、今何をやるのか。それから、事前確定運賃に対応するには、IT化しなければなりませんね。そのための設備投資ができる地域とできない地域が出てくると思いますので、それを少しでもカバーできるのが、運賃改定なのだと思います。

働き方改革にしても、そうです。東京方面では運賃改定が実施されることを見込んで春闘を戦ったという労組もあるようです。

やはり、運賃改定は慎重にやらなければなりません。私も、事前確定運賃の方を一生懸命やっていたので、びっくりしています。

でも、これは、許せないとか許すという問題ではないと思っています。片方からすれば、残り1カ月しかないのに本運賃改定と消費増税に伴う改定を行うのは、無理があるのではないか、という声が出るというのは、分からなくもない。そこを、どうして押し返さなかったのか、という思いはあります。

沖縄で15周年 55回を重ねたモニター会議を軸に

本紙  沖縄第一交通グループは15周年を迎えました

田中  進出した当初は、今まで、一つの県を網羅するようなバス事業はやったことがありませんでした。なので、利用者目線でやるしかないと思いました。リストラしたり、いろいろな経費を削減したりと、そのようなことは当然やらなければなりませんが、どうしてこのようなことになったのかを知りながら、利用者がどうしてバスから離れたのか、ということを聞いて経営や方針の透明性を打ち出していこうということでスタートしました。それで、今度55回目となるモニター会議を開き、そこで言ったことを行動してもらい、できないものは、そのままできないということがわかりやすかったのだと思っています。

それには、社員の理解がなければいけなかったのですが、本当によくここまで来たと思います。進出した当時の稲嶺知事に呼ばれ、「本当に、あなた達はやる気があるんですか」と言われました。県外の会社が来て、ゴヤゴチャにされたら困るという気持ちがあったのだと思います。それから15年が経ち、「本当に任せて良かった」と言われたので、ちょっとほっとしたという感じで、感慨もひとしおです。

今後、田舎では人口が減り、バス亭まで来られなくなる人が出てきています。そこは、タクシーよりも、キチンと守っていかなければならないところでしょう。電車の次の大量輸送機関なのですから。逆に言えば、当社グループはバスもタクシーもやっていますので、方法を選択できるという利点はあります。

沖縄第一交通15周年記念祝賀会の翌日開いた管理職会議で、サプライズで感謝状と記念品を贈呈しましたが、皆さん、泣いてくれました。続けて開いたモニター会議では、高校生が卒業したらバスガイドになりたいと言ってくれました。それは、いろいろな意味でオープンにしてきたからだと思います。インターンシップもやっていますが、大学生が映像研究会でCMを作らせてほしいと行ってきました。

皆で何かをしている、というイメージを、いかに皆さんに持ってもらえるかだと思います。それには、当社グループが15年歩んできた証となるバスターミナルができたのが大きいと思っています。商業施設や世界中のホテルから、使わせてほしいというオファーがありましたが、それを受け入れると周りが死ぬな、と思いました。最終的に当時、立て替え計画があった県立図書館が入りましたが、特に宿泊施設は、地元の人は使いませんよね。それなら、地元の人たちが使いやすいことをやりたい、という願いがスタートでした。いろいろなタイミングが良かったのだと思います。

本紙  お忙しい中、ありがとうございました

写真:田中亮一郎・第一交通産業社長