福山の坂道をかけあがる小型EVカート グリスロ潮待ちタクシー
自転車やバイクでしか登れなかった坂道もスイスイ

2019年9月11日付・第468/173号

グリスロタクシーの全景(横はアサヒタクシーの山田康文社長)
コンパクトな設計の運転席

【広島】広島県福山市のアサヒタクシー(山田康文社長)が運行する小型電動自動車(グリーンスローモビリティ)は、全長342cm、全幅135cm、全高187cm、車両総重量765㎏の軽自動車並。最大速度時速20㎞、4人乗り。高齢化、過疎化問題に共通の課題とされる地域の足の確保が可能となり、EVなので、環境にやさしい乗り物としても注目を集める。

実証実験後、4月から本運行をスタートしたが、全国から業界関係者の視察があとをたたない。ゴルフ場で使われているEVカートが青ナンバーを付け、実際に狭隘で坂道の多い歴史観ある街を営業車両として走る姿自体、珍しい。異口同音に「ぜひ、当社でも観光タクシーの目玉として導入したい」という声が聞こえてくるそうだ。

乗車すると、潮風をじかに感じることができ、石畳の細い道をゴトゴトと音をたてながら走らせていくと、地元のアサヒタクシーファンが気軽に声をかけてくる。そのたたたかい距離感がたまらないというリピーターは多い。

運賃は地域小型運賃の1.5㎞630円。電気自動車特有のトルクの太さで、宮崎駿氏原作・監督のアニメ「崖の上のポニョ」のモチーフとなった急な坂道が多い鞆の浦を一気に駆け上がる。

実証実験は4カ月で本運行をスタートさせた。その後、グリーナンバー取得のゴーサインがでないうちに、ゴルフ場でよく見かけるEVカート車両の購入を決めた。国交省としては、どうしてもグリーンナンバーを取得したかったからだ。鞆の浦は交通事故が少ない。もっとも、狭路地が多い地域なので、縁石にぶつけたり、という自損事故はあるが、人身事故が少ない地域だ。EVカートは、低速車。そのようなことで、3月末に営業用車両取得用の申請書類を揃えて提出した。実証実験は2両で行った。アサヒタクシーが現在、運行しているのは、このうちの1両。実証実験で使った1両は製造会社であるヤマハに返却。1両を購入し、グリーンナンバー取得の許可が下りた。

国交省からは、グリーンスローモビリティ車両にはドアーがなくてもいいという通達が発出され、準備が整った。グリーンスローモビリティの車体価格は350万円。トヨタのジャパンタクシーが1両購入できる価格だ。出発式は4月19日に実施した。アサヒタクシーは補助を受けずに全額を自社負担した。貨客混載や相乗りができれば、という思いがあったからだ。思いがけない効果では、町の郵便局から「移動ポストをやりましょう」という提案があった。しかし、法律にかかり、断念した。今後は、車両価格の半分を福山市が補助し、5人乗りのグリーンモビリティ車両を導入する予定だ。

一方、市役所はバス路線用に7人乗りの車両を2両購入する。そのため、山田社長はバス会社に「ウィン・ウィンでやりましょう」と呼びかけている。JR福山駅から鞆の浦の商店街までを走らせたらどうか、という案も浮上しているという。

写真:上=グリスロタクシーの全景(横はアサヒタクシーの山田康文社長)、下=コンパクトな設計の運転席