激震「本運賃改定は継続審議」
国交省、消費増税に伴う運賃改定だけ認める

物価閣僚会議、一部閣僚が議題外の全国53地区の本運賃改定に負担増と反対
キャッシュレス化、インバウンド対応、働き方改革の原資もぎ取る
改定率1.7~1.9%の幅内にとどまり増税率の2%に届かず、実質値下げの声

2019年9月1日付・第467/172号

【全国】国土交通省は8月30日、当日の午前開かれた物価問題に関する関係閣僚会議の決定を受け、10月1日から導入される消費税の増税に合わせて本運賃改定も実施する予定だった全国53地区について「継続審議」扱いにすることを決め、当該運輸局に伝達した。消費増税分2%の運賃転嫁だけとなる土壇場で反転決定は、国交省への強い不信感を生じさせ、今後に禍根を残すことになりそうだ。

消費増税分の運賃改定は、公定幅運賃、自動認可運賃ともに現行初乗運賃額に10円を加え、事後加算運賃についは、距離を短縮することで増税分を上乗せできるようにした。改定率は地域によって異なるが、消費増税が2%なのに対し、概ね1.7~1.9%の間になっている。そのため、「消費増税分を運賃に転嫁すると、実質的に値下げになる」との指摘もある。

当日の関係閣僚会議では、東京23特別区・武三地区から提出されていた運賃への消費増税分の転嫁に関する事案について審議し、了承されたが、他の53地区から提出されていた運賃改定と消費増税を合わせた値上げについては審議の対象外。

消息筋の情報によると、関係閣議の前の事前打ち合わせのため、国交省担当者などが関係閣僚を回る中で、「本運賃改定を伴う値上げは国民の負担を強いることになる。今回は東京特別区と同様、全国一律に消費増税分の値上げだけを認めたらどうか」とする反対意見が、内閣府、消費者庁、経産省から出たという。しかし、その反対意見が出た根拠が、果たして、本運賃改定の申請を行った全国53地区のデータを確認したものなのか、実施後の消費者マインドを想定しただけのものなのかは不明だ。

一方、今回の関係閣僚会議は持ち回りで行われ、各関係閣僚から出された意見については、東京特別区・武三地区の増税分値上げの決定と合わせて、8月30日午前に消費者庁が集約したという情報もあり、事実確認が交錯しているのが実態だ。いずれにしても、継続審議は関係閣僚会議の決定ではないことは明らか。

関係閣僚会議終了後、こうした重要閣僚の反対意見を踏まえ、東京特別区・武三地区以外の地域の値上げについて国交省内で最終検討が行われ、本運賃改定を予定していた全国53地区の協会長、副会長など業界幹部に理解を求めた上で、「運賃改定は継続審議」の決定に至ったもようだ。

しかし、当日の閣僚会議ではJR北海道の消費増税による運賃値上げと本運賃へ上げを認めており、普通旅客運賃で15.7%の大幅な値上げを実施する。同じ経営に苦しむのはJRもタクシー会社も同じだが、政府資本の入るJR北海道の本運賃値上げは認めるというのは、関係閣僚も説明に苦慮しそうだ。

消費増税による運賃値上げと本運賃改定を同時に実施する予定だった地域を所轄する運輸局には8月27~28日、「今回は消費増税による値上げだけが認められることになりそうだ」との情報が国交省から伝達されたという。この両日あたりに関係閣僚に対する国交省担当者からの説明があったと考えられる。通常、公示は午後2時にウェブにアップするのが運輸局の慣例だが、30日は関係閣僚会議の決定を受け、「運賃改定は継続審議」の伝達を国交省から受けた地方運輸局担当者が当該タクシー協会幹部に電話で今回の事態を説明して理解を求め、これら一連の作業に関する終了報告を待って、国交省は午後4時頃に電話で各運輸局に「消費増税分のみの運賃家庭決済」を伝達。5時半頃にようやく公示が各運輸局のウェブにアップされた。

消費増税による運賃値上げと同時に本運賃改定を予定していた地域のタクシー協会幹部は一様に失望と落胆の声を出している。ある幹部は「公示当日になって延期を伝えてくるのはおかしい。今回は消費増税による値上げだけというなら、もっと早期に分かっていたはず。すでに本運賃値上げの件は自治体等関係方面に説明済みであり、これからどう説明しろというのか。これから始まる政府の方針である働き方改革の原資も先送りになってしまった」と憤りを隠さない。

実施されれば24年ぶりとなる本運賃改定を心待ちにしていた大阪を所轄する近畿運輸局の藤原幸嗣・旅客第二課長は8月30日午後6時半と9月2日午前10時の2回にわたり、一般紙と業界紙に対し、本運賃改定が継続審議になった経緯を説明し、質問に答えた。

藤原課長は9月2日、本紙の取材に「早急に本運賃改定ができるよう進めていきたい。ただし、それは今から本省が、関係省庁を協議をしながら時期が決まる。だから、しかるべき時期に本運賃改定ができるよう、本省は努力すると言っているので、その言葉をお伝えするしかない。近運局としては、早くしてほしいという思いはある。現場の声がいちばん聞こえるのが、地方運輸局なので、その声をキチンと伝えるのが、我われの仕事だ。しかし、他省庁と協議をしなければならない本省とは、若干の違いがあることは否めず、その辺が難しい。私は、消費増税のための運賃改定と本運賃改定を同時に実施することが、すべて便乗値上げになるかというと、そうではないと思う。個人的には、24年ぶりの本運賃改定を行う大阪が便乗値上げなのか、というと若干の違和感がある。なので、私には判断できない。そもそも、運賃改定については、慎重に審議するように本省から言われていた。本運賃改定の数字は出ているが、継続審議を行うにあたり、その数字の変更に関する指示は出ていない。今後、仮に申請の取り下げが出てきたら、それは申請中の出来事になり、審査の最中に起きたことになる。なので、取り下げ願いが提出されれば、通達にもとづき、それはそれで受けざるをえない。取り下げ願いが続出し、仮に申請率が7割を切ったら、審査を中断せざるをえない。今後、本運賃が公示された場合は2回目のメーター改造をしなければならないなどの問題があるいう話は聞いている。現状は、本運賃改定の実施時期を延期しているだけなので、その意味では、今すぐに取り下げをして、実質的に本運賃改定がなくなるということが、本当に得策なのか、よく考えてほしい。メーター改造が1回多くなるが、そのコスト確保となる本運賃改定が後ろにズレたとしても、取り下げと実施された場合とを比べ、実質的にどちらが経営としていいのか、という判断をしてほしい。我われも2回続く運賃改定はコストがかかるという意見を聞いているので、その意見は本省に上げるし、本省もその意見を聞きながら、できることがあれば策を打ちたいと思っているようなので、そこを期待したい」と話した。

消費増増税と同時に本運賃改定の実施を予定していたのは、次の各地域。

▽旭川A地区、三重地区、函館A地区、静岡地区、伊豆地区、広島県A地区、高知市域地区、多摩地区、新潟県B地区、大阪地区、神戸・阪神間地区、埼玉県A地区、宮城県B地区、広島県B地区、相模・鎌倉地区、京浜地区、青森県、千葉県A地区、千葉県B地区、埼玉B地区、札幌D地区、札幌A地区、札幌C地区、滋賀北部地区、大津市地区、佐賀地区、大分地区、京都北部地区、鹿児島A地区、高知県郡部地区、和歌山市域地区、長崎A地区、宮崎地区、鹿児島B地区、長崎B地区、岡山県地区、山口県地区、長野県A地区、長野県B地区、室蘭地区、帯広A地区、帯広B地区、紀南・紀宝地区、釧路A地区、有田・御坊地区、淡路島地区、釧路B地区、島根県本土地区、栃木県地区、兵庫北部地区、岐阜地区、福島県、北見B地区――53地区

写真:「継続審議」に関する記者団の質問に答える藤原幸嗣・近畿運輸局旅客第二課長