富田昌孝・全タク連会長に聞く
後継に川鍋一朗・日本交通会長を指名
ライドシェア対策 自民本部での大集会を軸に

2017年1月4日

【東京】全タク連の富田昌孝会長は昨年12月28日、本紙のインタビューに答え、後継者問題に関する質問に「全タク連の会長に就任して10年が過ぎたが、10年というと少し長すぎるという気がしている。私の歳と川鍋一朗さんの歳の間に何人かいらっしゃるが、川鍋さんの他にやれる人がおられるかというと、難しい。そうこうするうちに、私も川鍋さんに譲るのにいい年齢になってきた」と語った。

現在、全タク連副会長および東京ハイヤー・タクシー協会会長を務め、日本交通会長とジャパン・タクシー社長を兼任する川鍋一朗氏が、富田会長が投げかけて久しい全タク連会長へのラブコールを、ようやく受け入れた格好だ。1月18日に開かれる今年最初の定例正副会長会議と、続いて開かれる常任理事会で了承されれば正式に内定される。

富田会長は、昨年11月15日に徳島で開かれた全国ハイヤー・タクシー事業者大会を、体調を崩して欠席。12月の定例正副会長会議に元気な姿を見せ安心させたが、思うように声が出ないもようで、6月改選に向け、去就が注目されていた。本紙のインタビュー内容は、つぎの通り。

昨年1年、変化はなかったが油断は禁物

記者  タクシー業界の1年は、ライドシェア対応に明け暮れた1年だったように思います。特効薬はなかったのでしょうか。

富田  この1年間、何も変わっていません。同じようなことを繰り返しています。いつまで経っても結論が出ないで申し訳ないのですが…。覚悟しないと仕方ありません。やはり、あらゆるケースを想定して、準備をしておかなければいけない。

どうなっても不思議ではないという見方もありますが、具体的にどうなるか、という予想は難しい。

問題はプラットフォームで、キチンと安全が確保されていれば、問題はないのでしょうが、まず、その辺の問題がクリアされないといけない、というのが最低の条件です。

では、その辺の問題がクリアされたからいいかと言うと、また新たな問題が出てくる。いちばん最初に親玉の大きな山をどうやって越していくか、ということだと思います。なかなか越えられないのではないか、と思いますが、それは分かりません。

彼らは、ライドシェアの保険を作るから大丈夫、などということを、この1年言ってきましたが、なかなかその域を出ません。なので、安全確保の壁を打ち破るのは、難しいかな、という気がしています。

しかし、彼らは、それが難しいなら、それをどうするか、ということを考えてくるでしょう。ウーバーは、その能力がある会社ですから、今月は何もなかったから、来月も何もない、ということは言えないと思います。いつまで経っても油断できません。安心できる時期が来るまでは、まだまだ時間がかかる、という気がしています。

記者  ウーバーの研究が浸透し、「絶対に来る」と言う人が、協会幹部も含め増えてきました。実際に来たときの対策について、どうお考えですか。

全国の協会長は頑張ってほしい

富田  私はまだ、「(ウーバーなどの)ライドシェアは絶対に来る」とは思っていません。彼らは、最後には参入を諦めなければならない、というときがやってくると思います。彼らは、結局は最後に諦めてギブアップして終わりになるのではないか、と期待しています。全国の協会長は、その一線を放ってしまうと、メチャクチャになってしまうので、それだけは絶対に譲れない、というところで頑張っていただきたい。

この問題は、各地域単独で取り組むというよりも、全国一緒になって頑張らないといけないといけません。全国の主要都市でライドシェアの実験をしようか、という話が出ているようですが、それが実現できるかどうか、というのは、まだこれからです。

私は実現するというところに持っていきたくありません。あくまでも反対です。一部の地域でやっても危険なことは危険ですから、やはり、そう簡単に、一部地域だからいいだろう、ということにはならないと思います。

記者  道路運送法の一部改正になるのか、それ以外の法律制定になるのかは分かりませんが、来年の通常国会でライドシェア法案なるものが上程されるのではないか、と言われています。

富田  この1年間というのは、皆さん、ライドシェアについて勉強した1年だったのだろうと思います。実現にはライドシェア参入は難しいということになったのですが、彼らは、もう少し掘り下げて、本当にダメなのか、こうやったらできるのではないか、ということが起きる可能性がないとは言えません。そういう意味では、来年が勝負だという気がします。

ライドシェアが許可される、ということにならないようにするには、どうしたらいいのか、というのが、私どもの考え方です。いろいろな考え方がありますが、基本的には、それを超える法律が作れない、というところですから、当座は法律そのものができないだろう、と思っています。

仮に、こうやれば安全が確保できる、ということになれば、そこでいろいろな問題が出てきますが、来年はそこまでは行かないだろう、と思います。何としても、ライドシェアが参入できないようにするのが、我われ業界団体幹部の仕事だと思っています。

マイナス思考はやめてほしい

記者  残念ながら、徳島の事業者大会には体調を崩され、出席されませんでした。もし、出席できていたら、どのようなことを訴えたかったですか。

富田  徳島市で11月15日に全国ハイヤー・タクシー事業者大会が開かれました。次の開催地は東京です。この事業者大会から事業者大会までの1年は、業界にとって、ひじょうに大事な1年になります。

私は体調を崩し、徳島の事業者大会には出席できませんでしたが、出席が叶っていたなら、「ライドシェアが来るのではないか、というマイナス思考はやめてほしい」と訴えたかったですね。そういう考え方はありえません。むしろ、現在のタクシー制度が続き、ライドシェア問題が消えていく、ということの方が、長い目で見れば時代の流れと言えるのではないでしょうか。

二階自民幹事長と反対の声を

ウーバーのライドシェアは世界に広がりましたが、一方で、それを禁止する国が増えています。ですから、日本でも皆で良く考えてもらい、ライドシェアが絶対に実現しないように頑張ってやるしかないと思っています。

自民党の二階俊博幹事長も言われているように、自民党本部に1000人ぐらい入れるホールがありますから、そこに代議士を集め、ライドシェア反対の発声の会をやるべきだと思います。それをどうやろうかと今考えています。それが来年の軸になりそうです。

記者  労働団体のライドシェア反対の取り組みをどう評価していますか。

業界労使は近づいている

富田  3月に日比谷公会堂でライドシェア反対集会を開くなど、運動を進めている労働団体については、1つの職業の中で、経営者と労働者が一緒のことをやっていると見ています。そのようなことは、これまで、そう多くはありませんでした。労働者が賛成すると経営者は反対と、いつも逆のことをやってきました。

しかし、今度の場合は一緒にやります。一堂に会して一緒にやるというのは難しいかもしれませんが、少しずつ近づいているのです。その意味では、労働団体が日比谷でやり、経営者が自民党本部でやり、それが大きくなって一つになる、ということができるようになるのではないか。そうすると、効果はもっと出てくる。その意味では、良いことではないかと思っています。 また、有力な政党である日本維新の会については、来年、動きを見ながら対応したいと思っています。

記者  後継者について、どのように考えておられますか。

半年前から川鍋氏にシフト

富田  全タク連の会長に就任して10年が過ぎましたが、10年というと少し長すぎるという気がしています。私の歳と川鍋一朗さんの歳の間に何人かいらっしゃいますが、川鍋さんの他にやれる人がおられるかというと、難しい。そうこうするうちに、私も川鍋さんに譲るのにいい年齢になってきました。

しかし、私が会長を退任するにも、残念なのは、ライドシェア問題だけが片付かないでいるかな、という気がします。これに対しては、この6月で入れ替わりますから、新しい勢力でそれを潰していく形になります。実は、半年前から徐々に川鍋さんにシフトしてきましたので、それがいい具合になってきていると思います。

記者  現在もまだ在任中ですが、この10年を振り返るとすると…。

富田  この10年を振り返り、会長職というのは、もう少し楽な仕事かな、と思っていました。そう思っていると、会長就任の翌日に東京の運賃改定申請の審査に伴う物価安定政策会議がありました。それは新会長である私向けの2回目の会議でした。

その後、各方面にお願いして、ようやくいただいたのが6%の改定率でした。実際には18%ぐらい欲しかったのです。今から考えると、それが良かったのか、よく分からない点があるのですが、そのようなことになりました。

その頃から、タクシー特措法制定につながるワーキンググループが開かれました。そして改正タクシー特措法ができる前に3年ほど政権交代の期間がありました。しかし、ライドシェア問題だけは予想外で特別でした。あれがなければ、もう少しいい感じで来たのかな、と思います。この10年はずうっと詰めっぱなしという状況が続き、実にタイトでした。

記者  ようやく初乗り距離短縮運賃が実施されます。

外国と運賃の差がなくなる

富田  東京で1月末に実施される予定の初乗り距離短縮運賃は、私が会長就任以前からあたためていたものでしたが、それが、ようやくできるようになり、良かったと思っています。これで、外国との運賃の差のことを言われることがないと思います。

一定距離以上は高くなるとか、いろいろと言われる人はいましたが、それは、実際にやってみてどうなるかは分かりません。総計で売り上げがプラス・マイナスゼロになるという設計になっています。

記者  本日は、お忙しい中、ありがとうございました。

(2016年12月28日、東京都文京区の日の丸交通本社)
※本文では時制を2017年1月現在に合わせています