ライドシェア特別委員会委員の田中氏インタビュー
緊急事態発生 毎月、全協会長も集結すべし
今後5年かけて道運法改正かタクシー事業法制定を

2016年6月30日

【福岡】全タク連副会長、地域交通委員会委員長で、地元では九州乗用自動車協会、福岡県タクシー協会、北九州タクシー協会の会長を務める田中亮一郎氏(第一交通産業社長)は6月14日、本紙のインタビューに答え、ライドシェア問題対策について語った。安心して経営するには全旅客モードを網羅する道運法の改正が必要との認識を示した。

「各県のこれからの仕事は、どの地域が交通過疎と呼ばれているのか。市町村がどこに地域交通を必要としているかを調べて、そこに『何かあったら言って下さい』と声をかけてほしい。そうしなければ、ウーバーなど他の産業が先に声をかけたら、『それはいいね』となってしまう。

しかし、タクシー業界が先に声をかけておけば、『どちらがいいか比較しよう』ということになり、時間稼ぎにもなる。なぜ、それをやらないのか。私は、地域交通委員長になったときから、何年も言っている。国家戦略特区法の一部改正法が成立しが、過疎地観光自家用有償運送の『主たる目的は外国人旅行者向け』としているが、主があるということは従があるということだ。

だから、誰にでもできるようになる。その代わり、『自家用有償運送の枠の中で収める』という附帯決議がついた。この間に時間稼ぎをして、『タクシー協会がありますよ』ということを、すべての地域でアピールしていかなければならない。そうしないと、知らないうちに事態はどんどん悪化し、8割も中身が決れば、気が付いたときに押し返すのはたいへんな労力を要することになる。

ここには、少なくともブロックの代表者が来ているのだから、帰ったら、ブロックの各県の協会長にお願いしてほしい。もしお金が不足しているとか、人が足りないとか、方法が分からないなら、これからは全タク連が支援をする。

まず、どの地域で、どこが欲しているのか、要らないと言っているのか、地図上に色分けしてほしい。やっても得はしないが、しかし、やらなかったら今よりももっとマイナスになる。けれども、実施すれば、相乗効果で一般タクシーのお客さんが増えることも事実だ。そうした新たな需要の掘り起こしができると考えなければ、やっていられない。

そのような地域でも高齢化が進み、もう10年もしたら村がなくなるかもしれない。コンパクトシティー化したときに町と村をつなぐ中距離輸送ができてくる。その中距離輸送をバス会社がやるのか。おそらくやらないだろう。そうなら、タクシーがやるべきだろう。たまたまラッキーで外からウーバーなどが入ってこない地域もあるかもしれない。しかし、そのような地域には観光客も来ない」

積極的に働きかけよ

このようなことを、6月8日の全タク連・正副会長会議で発言した。

当グループでやっていたことも明らかした。「企業の規模が大きいから、それができる」という人もいるようだが、過疎地の三重県熊野市では、17両の営業所でやっているので、小規模事業者にできないはずはない。

北九州市では今、皆やる気になっている。戸畑区、若松区などの5社が集まり、「やりましょう」と意思統一を行った。全体で月間15万円の赤字になっても、1社あたりにすれば3万円で済む。それなら、補助金が取得できるようになるまでがんばろう、と互いに励ましている。

そのようなことを、各地でやるようになれば、議員連盟の議員も、地方議員も、何かやろうとするときには自治体議会に諮られるので、そのときに全然知らない外国人が来て、タダで乗車できると言っても、反対してくれる。しかし、何もやっていなかったら相手にされないだろう。

これは、運転代行の白タク摘発のときと同じだ。こちらはキチンとした証拠をもってなければいけなかったから、福岡県全域の事業者に頼み、運転代行車両を見つけたらチェックしてもらい、運転代行ナンバーがダブっていないかを調べたら、同じナンバーの車両が複数走っていたことが分かった。これを持って警察に「キャッチしてほしい」と要請した。やはり、そのような地道にやっていかないといけない。「厭だから、ダメだからやめてほしい」と言っているうちは相手にされない。

この度、全タク連でライドシェア問題対策特別委員会が設立された。副会長や専門委員長の一部が構成員になっているが、47都道府県の協会長が委員になってもいいと思っている。それを率先して牽引するのが、何人かの副会長と各専門委員長という形になってもいいのだが、今やらなければならないのは、ウーバーが地方過疎地から入ってくるというときに、それをやらせておくのではなく、タクシー業界がそれに取って変わるための取り組みだ。国家戦略特区法の一部改正法で附帯決議を付けてくれたにもかかわらず、拱手傍観していたら、「議連の先生がたは、それなら、仕方がない」という話になる。

もしも、「附帯決議があるから大丈夫」と思っている地域があるとしたら、それは違う。附帯決議は、規制緩和になったときの道路運送法にも、タクシー特措法にもあった。しかし、そこに書いてあることを業界がやらなかったから、有名無実化している。

当グループも、福岡だけで8000両なら、このようなことをしなくてもいい。市町村とコミュニケーションができているからだ。少なくとも、北九州市で何かあったら、市から話がある。社会福祉協議会、盲導犬協会などと協会がガッチリ手を組んでいるからだ。地域交通の話は余程無理でなかったら引き受けることにしている。地方のタクシー業界がそのようなことの受け皿になっていかないといけない。必要とされているのだから。

東京で、初乗り1・059キロ410円などに短縮する公定幅運賃変更要請が7割を超えた。自宅は東京の自由が丘にあるが、そこから最寄り駅まで約900メートル。タクシーに乗ると、その距離を今、730円払っている。自由が丘駅は回転率がよいから、多数のタクシーが並んでいる。しかし、410円になっても、タクシーが待機するだろうか。もしかしたら「タクシーが足りない」ということになりはしないか。タクシーが少なくて困るのなら、なぜ、その地域で乗合デマンドをやらないのか。

つぎは介護市場進出

海外では、ウーバーでさえ乗合を始めている。そのようなことを、タクシーがやらなければならない。そのウーバーに出資している東証一部上場企業の社長と先日、会談する機会があり、今、ウーバーが何を考えているかを教えていただいた。福祉士、介護士、保育士などを個人登録させ、施設に所属していない人たちを短期雇用し、ウーバーのマッチングシステムを使って個人派遣しようとしている。

今、施設で働いている人たちよりも安くなり、せかっく国が保育士や介護士の給料を上げろ、と言っているのに、そのようなシステムが入ってきたら崩壊する。つぎは、そこを狙っている。

それに比べたら、タクシーなんて、ほんの少しの話だ。彼らは、困っている業界に入ってくる。需要はあるのに供給が少ないなど、供給する側が困っているところに、ピッタリのシステムだと言うことができる。スマホアプリだけで対応でき、何かあっても仲介だけなので、責任をもたない。

地方は兼業しないと、生きていけない商店や業種はたくさんある。東京のように、一つの業種に専業できるような企業はなかなかない。そこに、兼業のシステムだけをもってきて、手数料を取るような仕事を持って来られると、兼業でも地方は生きていけなくなる。

先日、稲田朋美・自民党政調会長(福井・衆院議員)との意見交換会があり、私は「地方創生にお願いがある。今、そこに住んでいる人、その地域の企業の雇用が、新たな規制緩和、あるいは昔からその地域にある慣習を法的に取り払ってもらい、そこの業界が成り立つような規制緩和をするのが第一ではないか。外から、まったく新しいシステムが入って来ると、その地域の人たちの仕事がなくなる。しかし、地域の業界が成り立つようになれば、社会保障費が増える。特にタクシーは、高齢者の雇用の受け皿になっている。給料は安いかもしれないが、社会保障費が入ってくる。厚生年金などの企業が一部負担をしていることもある。それが、すべて無職となり、個人でアルバイトをするようになったとき、日本の国はやっていけるのだろうか。やらなければならない規制緩和はやらなければならないが、シェアリングエコノミーと称してシェアしてくるもののために、古いものは潰せ、というようなやり方をすると、東京以外の地方は死んでしまう」と発言した。

適正化・活性化は不可欠

これに対し、稲田氏は「確かに小泉内閣のタクシー規制緩和は失敗だったと思っている。だから今、タクシー特措法ができて、適正化・活性化の中でタクシー業界が苦労しているのに、新たに業界外からライバルのようなものが来るのは、不公平だと思っている」と集まっていた100人ぐらいを前に言われた。「今の事業主が、しっかりと適正化・活性化を進めていってもらえることと、外から入ってこようとしている地域では、積極的にタクシー業界が手を差し出していかないと、いくら法律で守られているとしても、利用者ニーズは守れない」と言われた。これには「その通り」だと思った。

例えば、北九州では6000~7000人のタクシー従事者がいる。このうちの半分が正社員辞めて、ライドシェアをやると言ったところで、その人たちが病気になったときに社会保険に入っていないことから、医療費が払えないとしたら、生きてけるのか、という話になる。

とにかく、タクシー業界は、目の前にある課題を一つひとつ片づけていくしかない。今回、タクシー特措法で適正化に取り組み、特定地域が準特定地域になって3年経過したら、特措法が解除される。そしたら、そこに待っているのは規制緩和だ。本来は5年間の時間稼ぎをしている間に過疎地を埋め、道路運送法の改定もしくはタクシー事業法(道路で商売する車両の法律)を作らないと、5年経ったら元に戻る。

たいへん厳しい言い方かもしれないが、地道にやっていない地域は諦めるしかない。それで来なかったらラッキーと思うほかない。今、外国人観光客を相手にやるというレールが敷かれている。ただ、附帯決議で地元事業者がやらないところに限るということになっている。だから、そこのバス・タクシー会社が手を挙げなかったら、好きにできるということになる。やる、やらないというのは市町村が決めることだが、相手をどこにするかを決めるまでには少し時間があると思う。

もしかしたら、聞きにいくと、ウーバーに決めているという自治体が20~30カ所はでてくるかもしれないが、現段階では、どの自治体がどのような意思をもっているかさえも分かっていない。だから、まず47都道府県の協会が、市町村のすべてに手紙を出して、「このようなことをタクシー業界がやるので、そのときにはご相談下さい」と各地で実績表を持って回る。それで話がスタートするならいいし、すでにウーバーなど他の業者と話を進めているなら、「このような法律ができたので、これに則りやって下さい」ということを運輸支局から言ってもらい、そのことを検討するなどで時間を稼ぐ。この間、こちら側がキチンとやっていくしかない。

逆転発想で「東京特区」

秋にシェアリングエコノミー法案なるものが出てくるのであれば、それに対応して、最低限価格はタクシーに同じにする、時給は地域最賃以上にするなどを要請していかないと負けてしまう。しかし、ウーバーがタクシーの運賃を同じにするというなら、絶対に負けない。ウーバーは需給に応じて「運賃」を高くしたり安くしたりしているのだが、なぜタクシーが安い方に合わせなければならないのか、と思う。

だから、地方を特区にするという発想ではなく、東京を特区にするという逆の発想が必要なのではないか。最終的には、できる、できないは別にして、今の議連の先生がやっていることをキチンとバックアップしながら、適正化・活性化をしていく。

同時に運転代行、自家用有償運送、ライドシェアも含めて同じ土俵で闘えるよう、5年ほどかけて道路運送法の本法の改正か、タクシー事業法を作ってもらわないとダメだ。そうしていかないと安心して経営できない。そう思いませんか。