蟻の一穴 3月から「交通空白」丹後町で実証実験
ウーバーとNPO法人、タッグで公共交通空白地有償運送事業
初乗り1・5㎞480円、4kmで地元タクシー運賃の半額
京丹後市長「それでもライドシェア国家戦略特区申請取り下げない」

2016年2月3日

【京都】平成27年度第4回京丹後市地域公共交通会議が1月29日、京丹後市の「峰山総合福祉センター」で開かれた。主な議題はNPO法人「気張る!ふるさと丹後町」が提案するICT(情報通信技術)を活用した「公共交通空白地有償運送事業」について。その内容は、ウーバー・ジャパン株式会社の協力で行いたいとする事業だった。当日は同議案が審議され、委員として出席していた峰山自動車も含め、全会一致で了承された。丹後町では昨年からウーバーについて住民の間で好意的な話題が広まっていた。

会議で示された事業スキームによると、NPO法人が市から補助金(コミュニティビジネス応援援助)を得て運営するが、配車システム(運行管理、クレジット決済)はウーバーのプラットフォームを使用する。またNPO法人はウーバーにシステム使用料を支払う、というところまでは示されているが、肝心の自家用有償運送に登録された運転者はどこから「運送の対価」からロイヤルティなど諸経費を引かれた「賃金」を得るのか不明。市では「ウーバーとNPO法人は、そうした詳細についてこれから詰め、契約する」と説明する。

整理すると、運行主体はNPO法人「気張る!ふるさと丹後町」で、行政との関わりは「運行に関する支援(事業立ち上げ時の補助金支援、広報等)」。主な利用対象者は「丹後町域の住民及び来訪者(道運法施行規則第49条第2項の規定に基づき、市長が認めることにより対応するもの)」。運行区域は「丹後町を発地とし、着地は丹後町を含む京丹後市内のみ」。運行方法は「区域運行(オンデマンド運行)――即時予約(スマートフォン、事前予約不可)に基づき、定められた区域内の必要区間で不定期運行」。運転者と使用車両は「最大19人(登録想定者、他に運行管理者1人)で、NPO法人『気張る!ふるさと丹後町』が運転者要件の確認を行う。ここでは、ウーバーはNPO法人の後ろに隠れている。

運転者要件は、①年齢21歳以上(かつ免許取得3年以上)75歳以下②使用する車両は各保有自家用車(主に普通自動車。軽自動車も可)③二種免許保有者以外は国交省大臣認定講習の受講修了が必要④任意保険加入内容は、対人・無制限、対物・無制限が基本(NPO法人自らも当該運行に関連した傷害保険に加入)⑤運転者は配車を受け入れるときはシステムを【オンライン】にし、運転できない日や時間帯はシステムを【オフライン】にする――などで、すでに二種免保有者5、6人が集まっているとしている。

NPO法人は、「交通空白地」丹後町限定でスマホによるウーバー配車システムの導入など。「運送の対価」は初乗り1・5kmまで480円、事後加算は距離制で1kmまでごと120円。運行時間は朝8時から夜8時まで毎日(年中無休)。3月中に実証実験を始め、利用動向や実績等を検証した上で運行を見直すというもので「運賃」支払いはクレジット決済のみ。

一方、地元の峰山自動車のタクシー運賃は初乗り1・5kmまで620円(中型・自動認可C運賃)、距離制事後加算261mまでごと80円で原則現金収受。ウーバーの「運賃」は4km通過時で峰山自動車の運賃の約4割引となり、6km通過時でほぼ半額、15kmを通過すると、ほぼ6割引。同社の矢谷平夫社長は、丹後町の旅館宿泊者から送迎要請があると懸念している。観光客が集まる琴引温泉から最寄りの京都丹後鉄道・網野駅までタクシーの半額で運送するウーバー配車の自家用有償輸送が誕生することで、本来、地元タクシー業者が受けるはずの需要「持ち去り」が発生することは否めない。

京丹後市は1月中旬頃までは、地域公共交通会議開催の日程すら固まっていなかったと言う。市は開催前日の28日、急遽「すぐに来られる記者」に連絡し、記者会見を開いた。ウーバー・ジャパンに協力してもらうが、ライドシェアではない――タクシー業界からの安全確保の問題や「タクシーで出来ることはやらせてほしい」とする主張を打ち消すことも目的にあったのかもしれない。しかし、出席したのは『京都新聞』『毎日新聞』の記者2人。2紙は翌29日の朝刊に掲載した。地域公共交通会議開催の掲載で、市民に既成事実だったかのような誤解を与えた。市は、特に毎日新聞社の記事には誤解を招くとクレームを付けた。自家用有償は29日に全会一致で了承されたが、ウーバー・ジャパンとNPO法人の契約内容はこれから詰めるとのこと。水面下でウーバー、NPO法人、京都市丹後町の関係者と調整を重ね、ようやく方針が固まった。しかし、そんなに急ぐ理由は「交通空白地市民の足を守るため」以外にもあったのかもしれない。

一方の交通空白地と言われてきた網野町と久美浜町で、大阪と京都のタクシー会社が町内限定で運行する営業所進出申請を行った。認可されれば、「交通空白地」とは言えなくなる。同じ交通空白地である丹後町には地元の峰山タクシーが営業所設置を表明していたが、交通空白地有償運送事業の動きを察知していたからか、具体的な動きはなく、地域公共交通会議開催後に進出断念を表明した。

問題は、これでウーバーなど株式会社が運営するライドシェア国家戦略特区申請は取り下げるのか。京丹後市役所の野木秀康・企画総務部企画政策課公共交通係長はと聞くと、「決してなくなったわけではなく、昨年9月に申請したときの考えに変わりはない。特区が認められれば、丹後町に限らず他地域でもタクシーのような移動ができるようになる」との考えを示した。今回の公共交通空白地有償運送事業は、国家戦略特区が認められるまでの過渡的措置に過ぎないとの見方が強まっている。