運輸審議会 福岡 大阪で公聴会
「憲法違反」署名累計20万人分提出
既存協会とMKとの対立鮮明
2015年9月14日付・第342号
【福岡・大阪】福岡交通圏特定地域指定に関する公聴会が9月10日、福岡市博多区の「合同庁舎新館」海技試験場で開かれた。福岡MKはグループ会社として前回神戸市域交通圏の公聴会に続き、特定地域指定に反対する2万4千余人分の署名を提出した。
青木義明・福岡MK社長が反対、内田大亮・自交総連福岡地連書記長が賛成、占部正喜・MKグループ労連福岡分室長が反対、中井眞紀・(一社)福岡市タクシー協会会長、中野隆士・交通労連福岡ハイタク労連書記長、西岡潤史・福岡商工会議所商工振興本部長が賛成、濱和哲弁護士が反対、古野隆司・協和タクシー社長、安川哲史・安川タクシー社長、山下奉昭・福岡個人タクシー協組理事長が賛成の立場から、それぞれ15分以内を持ち時間として発言した。
大阪市域交通圏の特定指定に関する公聴会が9月11日、大阪市中央区の「大阪合同庁舎4号館」海技試験室で開かれた。大阪MKはグループ会社として前日福岡域交通圏の公聴会に続き、特定地域指定に反対する13万7千余人分の署名を提出した。
青木義明・大阪MK社長、岡田敏彦・MKグループ労連大阪MK労組委員長が反対、岡本勇司・(一社)全大阪個人タクシー協会副会長、小川敬二・交通労連関西地方総支部ハイタク部会長、坂本篤紀・日本城タクシー社長、坂本栄二・日本タクシー社長、渡久地歌子・関西生活者連合会副会長、普門大輔弁護士、三野文男・商都交通社長(一社・大阪タクシー協会会長)が賛成、阿部秦隆弁護士が反対の立場から、それぞれ15分以内を持ち時間として発言した。
鶴田浩久・国交省旅客課長は福岡、大阪の公聴会冒頭陳述で国交省の方向性を述べ、最終陳述で発言者10人に対し見解を示した。
国土交通省の鶴田浩久・旅客課長は福岡で9月10日、大阪で翌11日開かれた特定地域指定に関する公聴会で、賛成・反対のそれぞれの陳述に対し見解を示した。MKの反対陳述に対しては、特には言葉を多くして説明し、反論する場面もあった。
反対陳述に対する見解
福岡交通圏から中井眞紀・(一社)福岡市タクシー協会会長ら7人、大阪市域交通圏から三野文雄・(一社)大阪タクシー協会会長ら7人の発言があった賛成公述には「多くの人から交通圏おける供給過剰の状況、交通への影響、労働環境の悪化に伴う接遇の現状等についての指摘があった。適正化と平行して活性化の取り組みや若年層の採用が重要だとの意見もあった。こうした課題等の指摘は、改正タクシー特措法の立法趣旨と一致するものとして、国交省としても問題意識を共有するところだ」と述べた。
大阪市域交通圏に対しては「特定地域指定に関し、懸念として表明されることがある運転者の解雇の可能性について、必ずしも懸念に及ばない旨の意見があった。さらに、安全への取り組み、供給過剰状態解消の取り組み、接客サービスを中心とした活性化の取り組み、それらを複合させた議論を真剣に行っていくことが重要との意見があった。いずれに貴重な意見として、今後の改正タクシー特措法の運用にあたって参考とさせていただく」とした。
福岡交通圏に対しては「運転者の接遇マナー向上、交通弱者が利用しやすい接遇マナーの向上等、活性化に関する意見があった。関係者はこの点を再度しっかり認識し、適正化と活性化の両面を取り組んでいただきたい」とした。
その上で、両交通圏に対し、「冒頭陳述でも申し上げたが、公述人が指摘したの供給過剰状況、それを背景としたさまざまな弊害の現状を鑑みると、速やかに特定地域に指定され、改正タクシー特措法の枠組みに基づき供給過剰の解決を進めることが不可欠だ」との認識を示した。
反対陳述に対する見解
福岡MK、大阪MKの青木社長ら3人の反対公述には「減車および営業方法の制限命令が憲法違反に当たる可能性が高い、(福岡では、「独善禁止法適用除外の規定は自由競争を大きく後退させる恐れがあり問題だという意見をいただいた」という言葉を加えている)これら意見に対し、一部学識経験者から同種の主張があることを承知している。国交省としては国会で議論され、その上で衆参両院で賛成多数により可決成立した改正タクシー特措法の立法趣旨を踏まえ、これを適切に運用することによって供給過剰状況を効果的かつ早期的に解消し、労働環境を改善し、タクシーの安全性・利便性の向上を図ることが重要だ」との見解を示した。
大阪市域交通圏における反対陳述への鶴田課長の発言
特定地域の指定基準は合理的ではなく、根拠が不明瞭だ。衆参両院の附帯決議を踏まえ、安易な指定をすべきでないとの指摘には「具体的には実働実車率や実働実車距離を指標として採用した点の他、供給過剰の判断にあたり、平成13年度と比較する根拠に関する意見があった。現在の特定地域の指定基準は、改正タクシー特措法の立法趣旨や衆参両院の附帯決議等を踏まえ策定した正確かつ客観的な指標・基準と考えている。例えば、実働実車率は車両の稼働効率の状況を示すもの。日車営収は運転者の賃金状況を示すもの。実働実車キロは直近の需要動向を推計する指標として採用する他、協議会の同意によって、利用者の意見を踏まえた地域の意向を確認することとしている。実働実車率や日車営収を平成13年度と比較することとしたのは、タクシー特措法が平成14年2月に行われた需給調整規制廃止等の大幅な制度改正後の諸問題の解決を図るために制定されたという経緯を踏まえ、比較の対象として、この制度が実施される前の平成13年度と比較した。このように現在の特定地域指定基準は、さまざまな角度から複合的に供給過剰状態等を判断する基準としており、合理的なもの」との考えを示した。
タクシー運転者の給与形態は基本的に年功熟練で給料が上がるものではないので、全産業平均と比較するのではなく、パートや嘱託といった労働形態の賃金と比較すべきという意見があったことに対しては「タクシー運転者は、全産業労働者平均よりも勤務時間が長く、道路運送法令についても安全確保の観点から、短期間労働者をタクシー運転者に選任することを禁止している。このことから、タクシー運転者の平均賃金と全産業労働者の賃金平均を比較するのは合理的と考える。なお、タクシー運転者は安心・安全・良質なサービスを提供する公共交通機関の担い手で、特定の人との比較は難しいと考える。タクシー産業を含め、多くの産業で、昨今、勤務形態・賃金形態が多様化していることを踏まえ、労働環境に対するより適切な分析手法について検討が必要と考える」とした。
重大事故を起こした事業者には厳しい処分が必要という意見には「重大事故を含め、重大かつ悪質な法令違反が認められる事業者には重点的に監査を実施している。その結果、重大事故を含め、重大かつ悪質な法令違反が認められた事業者には事業停止、許可取消等の行政処分を行っている。この制度を効果的に運用することで、タクシーの安全性を高めたい」とした。
地域協議会運営に対する疑義があったことに対し、「協議会運営のさらなる公平性確保、多くの利用者の意見を反映するという観点から、ガイドラインの見直しを検討する」ことを表明した。
福岡域交通圏における反対陳述への鶴田課長の発言
事業者ごとに営業形態が異なり、一律に規制するのは不適切という意見には「流し営業と予約営業のどちらが主体かは事業者ごとに異なるという指摘だが、2つの形態の違いで運送サービスが異なるということはなく、利用者は状況に応じて流し営業と予約営業のいずれも利用する。営業形態の違いにより、供給過剰の取り組みを振り分けるというのは適切ではない。供給過剰が発生している状況下では、流し営業と予約営業のどちらが主体かにかかわらず、営業区域全体で課題の解消に取り組む必要がある」と反論。
また独禁法適用除外が競争の自由を阻害するとの指摘には「供給過剰地域でタクシー事業者が減車等の供給力削減について話し合い、実施する行為について地域と期間を区切って適用する理由は、タクシーが地域公共交通の機能を十分に発揮し、公益性を担えるようにするためだ」とした。
福岡MKは実動率が高いため減車すると運転者の解雇につながり利用者利便が低下するとの意見には「改正タクシー特措法における供給輸送力削減は、減車だけではなく営業方法の制限も可能。実動率の高い会社でも、業務シフトの見直し等での対応も可能。さらにタクシーの労動市場の実態を見ると、必ずしも解雇が必要な状況になるとは限らない。利用者利便については供給輸送力を削減しても効率性を上げることで、全体として利便性を向上させることができる」と答えた。
最後に、特定地域指定基準への疑義に対し、「さまざまな視点から複合的に供給過剰状態を判断する合理的なもの」と説明した。