神戸市域交通圏特定地域指定に関する公聴会
4万人署名携え 特定地域指定にMK反対
吉川・兵タ協会長「公共交通の使命果たす場」
2015年8月11日付・第340号
【大阪】神戸市域交通圏の特定地域指定同意に対し、利害関係人から申請があったため8月7日、大阪市中央区の「大阪合同庁舎4号館」で公聴会が開かれた。7月17日の公述受付締切まで、賛成・反対計14人から申請があったが、時間の都合上、公述人は10人に絞られた。冒頭、運輸審議会の上野文雄会長が公聴会の議事進行の手順を説明し、円滑・静粛に議事が進むよう協力を求めた。公述人はそれぞれが書いた公述書を読み上げ、補足説明するなどした。関係者からは「新潟に倣い、2カ月遅れの10月1日指定か?」との声が出ている。
最初に鶴田浩久・国土交通省旅客課長が陳述。神戸市域交通圏における供給過剰状況を語り、改正タクシー特措法により特定地域候補地に選定されるまでの経緯、準特定地域協議会における特定地域指定が合意されたことを具体的数値を織り込みながら報告。神戸市域交通圏では、平成13年度と平成25年度を比較して、稼働率が15・2%減少、営収が4・6%減少、平成25年度の赤字会社が車両比ベースで55・5%になっているなど厳しい経営環境に置かれていることを指摘した。
特定地域指定に賛成する立場から、青田嘉之・扇弘興産社長が「特定地域イコール減車ではない。あくまで適正化・活性化の一つの選択肢。時限的に新規参入と増車をストップし、この間を適正化・活性化の時間に費やし、減車だけでなく、いわゆる事業再構築を行い、全体の収支を安定させ、各事業者の経営環境を改善することが目的」とした。
大久保昌彦・キクヤ交通社長は「規制緩和はタクシーに馴染まない。運転者の健康と精神的安定を図ることが安全・安心のタクシーの確立となる」と主張した。
北坂隆生・全自交兵庫地連委員長は、「一部事業者が自社都合で減車に協力せず、営業を続けている」と批判。その上で、「労働条件と環境を是正するためにも、適正化を早急に努めてほしい」と要求した。
鈴木雅司・阪急タクシー社長は「運賃規制撤廃は、タクシー産業にそぐわない」「当社の営収は減少傾向にあり、平成23年から回復しているものの、緩やか。業界の秩序を取り戻すためにも、特定地域に指定された上で、活性化策に取り組みたい」とした。
幡井政子・兵庫県消費者団体連絡協議会会長は、高齢者が利用しやすいサービスを求め、「消費者は過剰なサービスを望んでいない。ちょっとした心遣いが必要」とし、阪神・淡路大震災の経験を踏まえ、「タクシーこそが災害時に地域住民の足として、必要な乗り物」と訴えた。
前野博司・神戸個人タクシー事業協同組理事長は、「法人あっての個人タクシー。特定地域の指定で、良質な法人運転者が個人タクシー予備軍となり、個人タクシーに入ってきてほしい」と述べた。
吉川紀興・西神交通社長(一社・兵庫県タクシー協会会長)は「活性化は適正化が十分に行われてこそのものと考える。今日、反対も含め、いろいろな意見が出された。特定地域協議会の論議でそれらを解決し、公共交通の使命を果たしたい。その場を提供してほしい」と訴えた。
特定地域指定に反対する立場から、青木義明・神戸MK社長は「強制減車は憲法違反の恐れがある」とした上で、特定地域指定に反対する4万人署名を運輸審議会に提出したことを報告。最後に「特定地域で供給削減、運賃を値上げするのはいかがなものか。資本主義経済を逆行している。インバウンドが増加する中、好況になれば強制増車して運賃を値下げするのか」と疑問を呈し、「矛盾している」と結んだ。
濱和哲弁護士(神戸MK代理人)は特定地域指定基準の一つである「実働実車率の10%以上低下」に疑義を呈し、「実車率は需給状況を示すもので、供給過剰かどうかはこれだけで分かる。一方、実働率の低下は運転者不足から来るもので、実際には需給状況とは直接的に関係ない」などとし、特定地域に指定されなくても、準特定地域で対処できると主張した。
福元誠也・MK労連神戸MK労組委員長は「減車で車両当たり営収が上昇するというのには矛盾がある。もともと車両が余っているからだ。一方、МKは運転者が足りており、減車は解雇につながる。接客サービスが良いことが高営収確保に繋がっている。このような労働環境を壊したくない」と語気を強めた。
運輸審議会からの質疑応答が行われた後、鶴田課長は最終陳述で「改正タクシー特措法を適切に運用。タクシー事業の適正化と活性化を、共に積極的に進めて供給過剰解消を図り、運転者の労働環境の改善を通じ、タクシーの安全性・利便性を実現させたい。神戸市域交通圏の特定地域指定について、本日の意見や指摘を勘案して引き続き審議していただきたい」と運輸審議会に要望した。
運輸審議会の上野会長は公聴会終了後、記者団に「ひじょうに貴重な意見をいただいた。帰ってからすべての委員に報告する。議事録を含め、よく読んでいただくということの中で、あらためて十分に審議したい。その中で、どのような結論になるか、ということになっていくので、現時点では申し上げられない」と述べた。
結論の時期について「スケジュール感は持っていない。審議委員がどこまで疑問を解消できるかを大事にしたい。慎重な議論を進めて結論を出したい」との考えを示した。
神戸МKの4万人署名の扱いについては「審議会に提出されたので、青木社長が公述した内容の1つの証拠資料としながら、まずは拝見し、参考材料にする」とした。
青木社長が「強制減車は憲法違反の恐れ(可能性)」と公述したことに「個別案件に対する回答は控えたい」とした上で、個人的見解として「青木社長は分かった感じで言っているというような気がしながら聞いた。あくまでも各委員がどう受け止めるかだ」と述べるに留まったが、「我われが今審議しているのは、法律から外れたものの審議ではなく、あくまでも法律に基づいた審議会にかけるというのが前提。ただ、(違憲の可能性というMKの)意見は意見としていただいているので、それをどう各委員が考えるのか。そこを整理して審議していかなければならないだろう、という感じはしている」と付け加えた。