中間取りまとめ案提示
富田会長「適正化が先決」と疑義
新しいタクシーのあり方検討会 第3回会合

2015年8月1日付・第339号

【東京】新しいタクシーのあり方検討会(座長=山内弘隆・一橋大学大学院商学研究科教授)・第3回会合が7月24日、東京都千代田区の「中央合同庁舎3号館」で開かれた。中間取りまとめ案が示され、意見交換した。

今年1月28日に第1回検討会が開かれてから半年、急ぐように書き上げられた中間取りまとめ案は、労働団体から強い反発が出ている初乗り短縮運賃実施をはじめ、柔軟な運賃の対応による需要喚起を視野に入れた記述が目立つ。

今後のスケジュール 来年1月頃に最終とりまとめ

人材確保・育成ワーキンググループ及び事業経営ワーキンググループは、これまで各2回開催されている。

今回の中間取りまとめ案で示された事項のうち、活性化事業の評価手法や実証実験を行うもの等については、その手法等について検討を深め、来年1月を目途に最終取りまとめ案を作成する。

当日示されたスケジュールでは、10月頃を目途に運賃制度に関するワーキンググループを立ち上げ、来年6月頃に検討結果を取りまとめるとしている。同ワーキンググループで検討されるのは、①燃油高騰対策 ②閑散時間帯における需要喚起のための割引運賃の導入 ③タクシー事業者以外(第三者)の負担によって実施する割引運賃の普及策やその課題 ④初乗り短縮運賃実証実験に向けた検討――の4点。

また改正タクシー特措法の施行状況フォローアップに係る検討については、①活性化の取組状況に係る評価手法の確立について検討 ②地域協議会における活性化事業の取組状況について、総点検を実施し、フォローアップを行う――の2点をが重点。最終とりまとめ了承後も「タクシー特措法のフォローアップを行うため、年2回程度、定期的に開催される」ことが明記された。

中間案 割高感解消 初乗り距離短縮等 運賃の柔軟な対応が柱

中間取りまとめ案では、『運賃設定の柔軟化による潜在需要の顕在化』の1項目で、『初乗り距離短縮運賃の本格的普及』の〈基本的考え方〉として、「とくに、高齢化が進展する中では、日常的な買い物や通院等の短距離移動についてニ―ズが一層高まるものと考えられる」「短距離移動の潜在需要が顕在化しやすいと考えられる地域を中心に、初乗り距離短縮運賃の導入を促進すべきである」として、その〈具体的な対応策〉で、「初乗り距離短縮運賃の本格的普及に関心のある地域・事業者において期間などを限定した実証実験を行い、営収などへの影響について検証を行う」「その効果が確認された場合、本格的な普及に向けた制度の柔軟化等の検討を行う」ことが記された。

また2項目目で、『需要閑散時間帯の割引制度』の〈基本的考え方〉として、「高齢者にとって利便性の高い交通機関であるものの、買い物時や通院時等の近距離の移動については、他の交通機関に比して割高感があるために利用を控えている場合もある。特に地方部においては、昼間の需要閑散時間帯にこうした潜在的なニーズを捉えるべく、割引の実施を検討すべきである」として、その〈具体的な対応策〉で、「本制度の導入に関心のある地域において、自治体との連携も図りつつ、事業者や期間を限定した実証実験を行い、営業収入などへの影響について検証を行う」「実証実験の結果を踏まえ、その効果が確認された場合、全国展開を見据えた制度の創設に向けた検討を行う」方向を示した。

一方、特定地域の指定等については「制度の運用状況や効果等を見極め、経済情勢の動向等も踏まえた上で、タクシー特措法の制定及び今回の改正に趣旨に照らしつつ、特定地域の指定基準の見直しの論議を継続的に行う」ことを明記するに留まった。

最後に、「我が国タクシーサービスの品質等についての情報発信を、これまで十分に行っていなかったのではないか。タクシーに対する国民の理解促進という観点からも、今後、タクシー事業の魅力を積極的に発掘・発信していくべき」との方向を示し、IT企業の台頭など現在はまさに大きな転換期を迎えており、「この転換点を大きなビジネスチャンスとする積極的な姿勢が必要」と「適者生存」への方向を暗示しつつ、問題提起をした。

富田会長「労働条件の是正と適正化は最優先課題」と案に疑義

検討会では冒頭、事務局の国交省が「本日で取りまとめの方向を作り、来年1月に最終とりまとめを報告したい」との考えを示した。

これに対し、今村天次・自交総連書記長が「適正化問題を論議すべき」と発言。この発言に呼応するように富田昌孝・全タク連会長が「タクシー運転者の賃金・労働条件を改善するためにやってきた。需給の適正化を行うことが第一で、それ以外にやるべきではない」と語気を強めた。松永次央・全自交労連書記長は、富田氏に賛同して発言した。

このほか、富田会長は「地域協議会の委員が出入り自由というのはやめるべき」「地方運輸局長は、採決に参加しないことを前提に協議会に出席すべきだ」「公定幅運賃を作った以上、従来と同じ基準ではおかしい。変えた方がいい」「特定地域計画賛同(3分の2等)のハードルは高すぎる」「地域協議会で特定地域に同意したことを再度、運輸審議会で審議することはおかしい」などと多くの疑義を呈した。

こうした意見に対し、楓千里・JTBパブリッシング取締役・ノジュール事業担当らは「いろいろなサービス提供、人材育成がテーマのはず。それらを伸ばすためには若年層と女性の活用を業界に取り込もうということが検討会の趣旨だったのではないか」などと一様に反論した。

これに対し、山内座長は「取りまとめ案には、活性化、雇用問題に加え、もう少し適正化を盛り込んだらどうか」との折衷案を提示した。

川鍋一朗・東京ハイヤー・タクシー協会会長は「各省庁で諸税軽減や助成金の制度があるが、我われはそれらを十分に使いこなせていない。ぜひ国交省の力を貸してほしい」と要請。これに対し、若林陽介・大臣官房審議官は「各省庁を一緒に回り、タクシーに係る諸税削減ができるものは協力したい」と表明した。

このほか、学識経験者を中心として、各委員から「今回の検討会の目的は人材育成と活性化だが、タクシーはバスや鉄道とは違い、まだまだ認知されていない」「アンケートによるとタクシーの利用頻度は年に1、2回程度との回答が大多数。これが公共交通機関なのか」「タクシーがもっと関心をもたれるようなアプロ―チを地域に対して行うべき」などの意見が出された。

新潟県副知事に出向した前任者、寺田吉道氏に代わり、この日は7月15日付で国土交通省旅客課長に就任した鶴田浩久氏が進行役を務めた。7月31日付人事異動を控えていたからか、田端浩・自動車局長は欠席。若林陽介・大臣官房審議官は途中退席をする中での議事進行だった。