牛島憲人 松竹タクシー社長
高速道 時間距離併用なしに着眼
遠距離割引の是正について私見
2015年8月1日付・第339号
【大阪】松竹タクシー株式会社の牛島憲人社長は7月30日、大阪市北区の「リーガロイヤルホテル」で開かれた在阪タクシー専門情報紙記者懇談会で、次のように「遠距離割引是正についての考察」を披歴した。牛島氏は文書にしたためて出席し、「ぜひとも正確な記述をお願いしたい」と注文を付けた。微妙な表現もあるため、牛島氏の意向を踏まえ、本紙の解釈を付けず、全文紹介する。
遠距離割引の是正について私見を述べる。これは、タクシー協会の経営委員長としてではなく、交友会協同組合副理事長としての意見でもない。あくまでも松竹タクシーの社長としての私見である。何故ならば、特定地域においても割引の談合はできず、業界団体で意思統一することは許されないからである。しかし、自社単独ででも実施するという表明でもない。遠距離割引の是正についての議論が活性化することを期待して考察してみる。
「遠距離割引の是正は必要だが出来る訳が無い」とする意見が多い。しかし、このまま放置して良いのであろうか。改正タクシー特別措置法の附帯決議に「事業者は過度な遠距離割引運賃の是正等賃金制度等の改善等に努める」とある。業界の懇願より成立したのに、これを放置することは、タクシー業界の信用の失墜につながる。乗務員の待遇改善、次世代車両が小型クラスである点からも運賃改定が迫られている。だが、過度な遠距離割引のままでの運賃改定では、行政は元より、利用者の理解も得られない。
ということから、7千円以上3割引の再挑戦への待望論も聞かれるが、実現性は薄いと感じている。他の業界に目を向けると、熾烈な競争をしている携帯電話業界は、割引において同じ客層をターゲットにはしない。そんなことをすると単なる率の競争となり、互いに自滅することを知っているからである。しかも、どこが得か単純には計算できない仕組みにしている。7千円以上3割引は判りやすいが、それが致命傷となる。5千円以上5割引の業者が残ってしまう中で、その客層の一部をターゲットにし、かつ割引率を下げて勝てる道理がない。
ならば、前回の7千円以上3割引申請は茶番だったのだろうか。談合が禁止されている以上、実施できるか否かは蓋を開けるまで判らない。その中で、遠距離割引の是正を願っている事業者が7割あったことは、意義があったと言える。
当初は乗務員が流出する懸念からほとんどが5千円以上5割引に追従した。ところが、最近は乗務員が遠距離割引にストレスを持っている。だから、7千円以上3割引により逆の現象が起こる期待感は持てる。でも、期待感だけでは踏み切れない。
一般的に、一部のダンピングを除けば割引には根拠がある。バナナ5本以上については半額で売る場合、5本売るのも10本売るのも時間や労力の差はあまりないので損はしない。タクシーの場合、遠距離の売上にはそれなりの時間と労力を要する。もちろん、遠距離は高速道を通行することが多く効率的であるという点はある。しかし、一般道を走行して「堺」経由「東大阪」となると話は違ってくる。
要は、効率的な売上にはしかるべき割引を行うのが商売の原則だということだ。タクシーでバナナの叩き売りをしたため、非効率な売上にも割引を適用することになった。そして、乗務員が遠距離を敬遠し始めることになる。
それでは、どのような割引が適切なのかを考えていくと、距離の遠近ではなく、短時間、省労力で可能な売上にも割引を適用すれば良いことに気づかされる。例えば、高速道路通行区間を割引対象とする「高速道路割引」はどうだろうか。一般道より短時間で売上できるし、高速道は乗務距離制限が緩和されている訳だから、乗務員の理解も得られる。阪神高速の距離制と相まって近距離でも高速道の利用客が増えることも考えられる。また、料金メーターには高速道路ボタンが実装されており、ハード面での障害は無い。
ここで、新御堂筋という大動脈があることは無視できず、利用する乗客は決して少ないとは言えない。ということは「高速道路割引」ではなく「(自動車)専用道路割引」とする方が良いのかも知れない。また時間制料金は高速道路では不適用だが、それを見直す機会かも知れない。
問題は割引率をどうするかである。5千円以上5割引から脱却するためには最低でも2割以上の割引が必要だろう。しかし、シュミレーションしてみると、2割以上では割引の減少効果は少なく、是正にはならないことが解る。それに、一度設定した高割引は将来に禍根を残すことになる。
ならば、1割引はどうだろうか。高速道路割引は金額に関わらず適用できる。よって、効率の悪い遠距離は5千円以上5割引に格安で苦労してもらい、効率の良い6千円以下を高速道路割引が頂戴するなら、乗務員のストレスも軽減されるのではないだろうか。
もちろん、7千円以上3割引に集約されるなら、それが一番である。しかし、集約できないならば、追従しない事業者を利する割引では前回と同じ轍を踏む。その点、高速道路割引には、同じ客層をターゲットにしないので、少数だけが実施しても成立すると判断している。単独でも実施したいところではあるが、交友会の一員という立場も考えないといけない。
これまでの思考に論理矛盾はないと思っているが、イコール多く支持を集めるとも思っていない。高速道路割引は、直観的に受け入れられない部分があるだろう。あとは、どれだけが割引の本質を考えてくれるかが鍵となる。いずれにしても、遠距離割引の是正の布石となることを願う。
以上 (原文ママ)