新運賃導入と観光需要増で増車
帝産観光バス 亀岡寛治社長(現・同社代表取締役会長)に聞く

2015年6月21日付・第335号

【東京】昨年、貸切バス業界に異変が起こった。それは国交省がタクシーの公定幅運賃にあたる新運賃を全事業者だけでなく、主な発注先である旅行業者に対して適用を義務付けたことだ。寺田・国土交通省旅客課長は、同制度について「実施して1年が経過しているが、多くの地域で守られている。ただ、その中でも守っていないバス会社があり、監査を強化しようと考えている。また旅行会社にも『利用者のことを考えると安くする方がいい』とするところがあるので、その辺は引き続き説明していかなければならない」と語っている。現場ではどのように捉えているのか。大手の帝産観光バス 亀岡寛治社長(現・同社代表取締役会長)にうかがった。

亀岡  貸切バス業界が良くなったのは原因の一つに運賃値上げがあります。今まであまりにもこの業界は悪すぎました。それは平成12年の規制緩和で、バスの車両数が増えたからです。安全を確保していない会社が出てきた。そうした会社を淘汰していかなければならない、という論議が起きてきた頃に例の高速バスの事故が起きた。これをきっかけとして、もともと総務省が勧告を出していたのですが、安全と安心を確保するため、適正な運賃料金を収受し、運転者の待遇を改善して労働条件をよくしないと、絶対になくならないというのがきっかけだったわけです。その安全確保策実施後2年ぐらいで拘束時間は事実上、無制限だったのが月間165時間などにキチンと守られた結果、賃金は逆に下がってきました。そういう中で、同時並行して諮問からの答申があり、昨年新運賃制度がスタートしました。

―― 実質、どの程度の値上げになりましたか?

亀岡  新運賃は時間制と距離制から成り、上限から下限まで、相当な幅を設けています。以前の認可運賃は新運賃の上限よりも高かったのです。しかし、実勢運賃がものすごく低かったものですから、新運賃はそれと比べると2~3割高くなったと言われていますが、もともとの認可運賃からすると下がっているのです。ただ、皆さんが新運賃制度を実行することによって1割、2割、3割と上がってくると思うのです。ハッキリと何割上がるかは分かりませんが、上がることには間違いない。シーズンオフでも上がります。JTBなど大手旅行会社は指導的な立場にあるので、キチンと守ることが義務付けられています。修学旅行を担当する教育委員会も下限運賃を下回ってはなりません。競争入札の時に余りにもダンピングしていたら、ダンピングした方が罰せられます。

―― 具体的には、どのような罰則があるのですか。

亀岡  運賃違反をやったら30日間の事業停止や、一定期間の車両停止だとかを被ることになります。それが一発で来ます。ですから、かなり厳しい。旅行業者に対しては、違う方法で罰則がきます。違反をしたらお互い、かなりのダメージがあるので、そのことが浸透し、かなり良くなってきています。学校も教育委員会を通じて理解され、大手旅行業者に浸透しています。ただ、中小やインバウンド系の貸切バス会社や旅行会社では、まだ浸透していないところがあるようです。しかし、そうしたところが違反しても罰則の対象になります。全体的にはかなりの底上げができていると思います。しかし、修学旅行は今年の春までは旧運賃を適用していたので、実際にはまだ大幅な値上げにはなっていません。けれども、京都の修学旅行はシーズン中の受注ですから、もともと高い運賃を適用していました。来年以降は新運賃を適用しますが、それほど上がないと思います。

―― バスガイドさんの料金はどうなっているのでしょうか。

亀岡  シーズン中にバスガイドを付けると、1人1日当たり1万円から1万5千円が運賃料金の他に実費精算されます。しかし、旅行業者は、できるだけガイドを減らしていこうとしており、これからガイドのあり方がひじょうに難しくなっていきます。当社は修学旅行や教育旅行を一つの柱としているので、ガイドを減らすつもりはありません。修学旅行生にとってもガイドクラブが派遣する年配のガイドよりも、少しお姉さんぐらいのガイドの方がよいのではないでしょうか。

―― 新運賃制度の狙いはどこにあるのでしょうか。

亀岡  タクシーも同じでしょうが、現在の運賃では将来、運転者の成り手がいなくなってしまう。それにブレーキをかけるために、短時間労働でコストをかける。そうすると賃金を上げられる、この新運賃制度はそうした相関関係の中で回っているのです。

―― 最近、増車されました。

亀岡  昔は全社で290両程度ありました。それが250両程度まで減車しました。それが今年は275両まで回復したというのが実情です。最終的には300両程度まで増やしたいと思っていますので、そうなれば過去の最高時に比べ増車になります。当社は東京、名古屋、京都、大阪、奈良、神戸と都市圏に支店があり、これらの地域は大都市なので、やはり需要があります。需要があるのなら、運転者がいれば増車すべきだと思います。増車により間接経費の節約ができるなら、会社としてはうまくいくだろうという考えの下でやっています。300両以上増やそうと思えば、6都市圏の他の道県に進出しなければなりませんが、5年後の東京オリンピックまでは東京、京都、大阪に投資していきたいと思っています。

―― 一時減車したのは、どのような理由からですか。

亀岡  需要が低下してきたからです。平成12年の規制緩和後、貸切バス車両だけがそれまでの2倍に増えました。その辺、貸切バスは1両あたりの購入費と維持費がタクシーに比べて高価ですので、淘汰が早かったと思います。儲からないものですから、大手私鉄系が貸切バスを止めていきました。

―― タクシーの規制緩和の比ではありませんね。増車競争に火が点いたのはいつごろからでしたか。

亀岡  規制緩和実施直後から1両当たりの営収がどんどん落ちていきました。それが、東日本大震災が発生する年頃まで続きました。1両3000万円から1800万円にまで下がりましたので、4割下がった。一方、物価はどんどん上昇するものですから、お話にならない。黒字は5、6、10、11月の4カ月しかない。あとの月は皆赤字でした。経営維持するために職員を減らせば、安全が維持できなくなる。これは当然の帰結です。運転者の賃金も良い時には650万円程度あったのが、400万円を割るまでに下がりました。そうなると運転者は来ません。やはり従業員の生活と雇用を守らなければならない。人間の尊厳を守ることは当然ですよね。

―― 東京オリンピック後はどうなるとお考えですか?

亀岡  余韻は2年は大丈夫だと言われていますが、それ以降はひじょうに厳しいと思っています。その時にインバウンドがどうなっているか。日本が観光立国として成り立っているか。それの需要が安定的に継続するのか、ダメなのかはオリンピックが終わった直後に分かると思います。いろいろと聞くと、オリンピック施設の再利用を含めて訪日外国人を迎えたいということらしいのですが、そうした恩恵を受けられるのかどうか。未知のことの方が多いですよ。

―― ありがとうございました。