木村忠義・全個協会長、今年の抱負を語る
事前試験制度 冷ややかな声 とんでもない
やっと実現したが、これで終わりではない
2015年1月1日付・第319/320合併号
【東京】(一社)全国個人タクシー協会の木村忠義会長は昨年末、本紙の質問に答え、事前試験制度の実施、地域ごとに一定の個人タクシーの枠を定めるよう求めるなど、今年の抱負を語った。発言要旨はつぎの通り。
平成21年に旧タクシー特措法が制定された。当時指定された特定地域は今の準特定地域と同じ地域とは言え、個人タクシーの新規参入は事実上の禁止となった。当時、私は国交省の局長や旅客課長に「個人は新規がいなくなったら、限りなくゼロに近づく。しかし、残された譲渡譲受制度では申請から処分まで日数がかかりすぎるので、何とか事前試験制度を導入してほしい」と要望した。その後、課長が5、6人代わり、政権交代もあった。現政権となり、改正タクシー特措法が施行されたが、やっとその際の附帯決議に「譲渡譲受試験制度の運用改善」を入れていただくことができた。これにより、行政も動きやすくなったと思う。実現に向けてご尽力いただいた行政の方々はじめ関係各位に心から感謝申し上げたい。
私が、「それでも大丈夫か」と懸念していたのは、東京をはじめ各地で個人タクシーによる無免許運転や飲酒運転等が起きているが、そうした中、行政から「個人タクシーの面倒をみてもいいのか」という声がいつ出てもおかしくないということ。国会で附帯決議が上がったから、ただちに行政が動いてくれるという状況ではなかった。その意味で行政の皆さんにはよくやっていただいたと感謝している。
とは言っても個人タクシーは、全国のピーク時には4万8000人いたのが今は4万人を割っている。20%余りの減少であり、何とかしなければならない。地方では、例えば群馬では7人いたのが5人になっている。激減状態からさほど大きく改善できないかもしれないが、少しでも横ばい状態に近づけていく取り組みをしないと組織が持たない。
しかし、数が減るのを恐れて質の低下を疎かにしてはいけない。その数は、全体からはほんの一握りかもしれないが、社会はそうは見てくれない。もっと我われが意識改革を重ね、「個人は優秀適格者だから残していただいている」ということを啓蒙していかねばならない。
近畿では和田廣一支部長が努力していただいている。しかし、役員の方々が意識改革の方向に舵を切っているつもりでも、一般の事業者の方々のベクトルが左右に分散していてはいけない。皆でベクトルを同じ方向に向けて進まなければいけない時期だと思う。なかには、人心一新で新たな人がリーダーになるべきという意見もある。しかし、その人が真っ直ぐに前進できる人ならいいが、団体長の中には、意識改革とは別の方向に向いている事業者の代弁をして「そんな厳しいことを言っても、組合員さんはついてこない。そんなレベルではないのだから」と悪い状況を肯定する人もいると聞く。そのような一部の役員に良識ある役員さんが引きずられていってしまってはいけない。
支部長さんや都道府県協会会長さんがそれを本来の正しい方向に引っ張っていかねばならない。自分の立場を守ろうとして良くない組合員さんの人気取りをする幹部が蔓延してしまうと、この業界は本当に埋没してしまう。だからこそ、組合員さんの意識を改革しなければならないが、その前に役員や中核リーダーの意識改革を進めて、「現実はこうなっている」ということを皆に分かってもらえるようにして、我われの仕事、個人タクシー制度を守っていかないといけない。時として組織内の「革命」で団体長になる人もいるが、実はその人たちはどのような理論構成で革命を起こして上がってきたのか、ということが問題だ。
正しい現状認識をもって、資質向上を訴えて現認者に対抗して、それが皆に受け入れられて上がってきたのならよいが、「現任者はやかましいから交代させよう」といって上がってきてしまった人に、組合員さんのベクトルを上に向かせることはなかなか難しいだろう。例えば、マスターズ制度に否定的だった人が役員になってしまった場合、マスターズ制度の必要性について説得力をもって訴えることは難しい。「『参加章』や『認定章』を貼らなくてもいいからマスターズ制度に参加して下さい」といって勧誘したという話もある。個人タクシーの組織は、現在、本当に気を付けないと、おかしな方向に行ってしまう危険性を孕んでいる。
一方、前述したように、個人タクシーはほとんどの地域で減少を続けている。法人は新規を止めても自然減少が続くことはないが、個人は新規を止めたら減る。それが平成21年から6年続いている。仮に20年間、こんなことをやっていたら、個人はいつの日にか絶滅してしまう。 現在、個人は地域ごとに一定の割合でキープできるようにお願いしている。中には、「事前試験制度は焼け石に水」と冷ややかに見る人もいるという声があるが、それらはとんでもない話。事前試験制度は命がけで行政にお願いし、やっと実現したことだ。活用していかねばならない。ただ、これで終わりということではない。