<緊急提言>
サーチャージ導入とコンフォート生産継続
人件費以外で、原価を大きく押し上げるものを抑制せよ
果たして、喫緊課題は燃料費高騰に対する対策だけか?

2014年11月7日付・第313/314合併号

【全国】9月に続き、10月の全タク連正副会長会議で、LPガス燃料高騰問題が議論になった。正副会長からは、「1回の乗車に付き、30円~50円など定額で燃料高騰分を補ったらどうか」とする意見に対し、「あくまでも運賃改定の実施で対応すべき」という意見があった。こうした意見に対し、国交省からは「1回に付き定額を徴収する方法はダメで、あくまでも運賃改定でやるべき」という回答があった。

1回の乗車に対する定額徴収が主張される理由は、「燃料価格が下落した時、メーター改造を何回もやらなければならない。メーター改造費とサーチャージ料金の兼ね合いを良く精査していかなければならない」という指摘があり、メーター改造以外での方法を探る中で出てきたものだ。

また、これまでに運賃改定を実施した地域からは、「サーチャージでないと利用者からの理解が得られない。ただ、大阪など平成9年以降、運賃改定を実施していない地域があるので、そこでは運賃改定で対応したらどうか」という一歩踏み込んだ意見が出ている。このように、最近の正副会長会議では、活発な意見交換が行われている。

実際に、「燃油サーチャージ運賃」を実施している地域がある。和歌山県の和歌山市域交通圏だ。話は和歌山市域の運賃改定が実施された平成19年9月にさかのぼる。この時の査定に使われたLPガス燃料価格は68円98銭。これらの原価をもとに小型車で上限600円(初乗り1・8km)の運賃改定が認可された。ところが認可直後、ガス価は上昇し、一時は90円を超える勢いになった。そこで、ガス価高騰分を何とかしてほしいとして、当時の(一社)和歌山県タクシー協会の田畑孝芳・運賃委員長が全タク連に陳情に行き、富田昌孝会長に直訴している。田畑氏は、国土交通省の奥田哲也・旅客課長ら(当時)にも説明した。地元・近畿運輸局側で事業者側の要望にこたえ、尽力したのは新垣慶太・自動車交通部長(当時)だ。このようにして和歌山の「燃油サーチャージ運賃」申請は平成20年9月に始まり、1カ月後には100%申請となり、ただちに審査に入った。

  下に示した資料は平成20年9月16日付で発出された「一般タクシー事業における燃料費高騰への対応について」と題する九州運輸局公示で、参照していただきたい。


九州運輸局公示

一般タクシー事業における燃料費高騰への対応について

昨年来の燃料費の高騰が一般タクシー事業者の経営に影響を及ぼしている状況を踏まえ、一般タクシー事業の運賃改定(需要構造、原価水準等を勘案して運賃改定手続をまとめて取り扱うことが合理的であると認められる地域として九州運輸局長が定める地域において普通車(普通車の車種区分がない地域においては九州運輸局長の定める区分による車種別)の最も高額の運賃よりも高い運賃を設定することをいう。(以下同じ。))については、当面、下記により取り扱うものとする」とし、19年4月5日公示に基づく運賃改定(以下「前回改定」という。)の実施から2年を経過していない地域における運賃改定手続は次によるものとし、最初の申請があったときから最長3ヶ月の期間の間に申請を受け付けることとし、当該期間中に申請があった法人事業者の車両数の合計が、当該運賃適用地域における法人事業者全体車両数の7割以上となった場合には、3カ月の期限の到来を待たずに直ちに運賃改定手続を開始することとする。その際、運賃原価の算定は、下記の方法により行うこととし、改めて標準能率事業者及び原価計算対象事業者の選定は行わない。

「運賃原価の算定」

① 燃料油脂費
前回改定時の査定値について、燃料費単価を最近の価格に置き換えて算定した数値とする。

② 燃料油脂費以外
前回改定時の査定値とする。
※標準処理期間は1ヶ月とする。

「収支状況及び労働条件の改善状況等の報告」

本通達に基づく運賃改定実施後6ヶ月後を目途に、事業者団体から燃料油脂費を始め各費用を明らかにした収支状況及び労働条件の改善状況等を各地方運輸局等に報告させるとともに、事業者団体が自主的に公表することとする。


和歌山市域の場合、平成20年12月に小型車で上限630円~E運賃590円の「サーチャージ運賃」が認可された。LPガス燃料の査定は100円で計算され、先の運賃改定で認可された上限に4.8%が上乗せされた。しかし、その時にはLPガス価は下降し出しており、認可されたばかりの運賃に30円上乗せした「燃油サーチャージ運賃」を選択する事業者はいなかった。こうして、「タクシーのサーチャージ」は幻に終わった。

が、今年3月、公定幅運賃の公示とともに、消費増税分が上乗せされた「燃油サーチャージ運賃」が復活する。小型車で上限650円~610円。他の事業者が旧運賃に消費増税分20円を上乗せし、小型車で620円を選択する中、当時、(一社)和歌山県タクシー協会会長を務めていた田畑氏が社長を務める相互タクシーが率先して上限の650円で届出し、「サーチャージ運賃」を実施した。業界では「すぐに元に戻すのでは?」という憶測が広がったが、11月現在、上限のサーチャージ運賃を続けている。しかも、気になる売り上げは、税抜き対前年比で落ちていない。

本紙は田畑氏にお願いして、社外秘である営業資料を見せていただいた。驚くことに、総営収で前年同月を上回っている。

税抜き総営収で、4月7.7%、5月11・4%、6月8.2%、7月8.0%、8月6.8%。稼働率は、4月4%、5月6%、6月8%、7月6%、8月4%、9月4%。税抜き実働日車営収では4月4%、5月4%、6月2%、7月2%、8月8%、9月3%――総営収は増加したが、稼働率も上昇したため、実働日車営収の上昇幅は狭くなっている。

「上限運賃を選択する時、全従業員に、これは相互タクシー60年の試験だと思ってほしい。これまでの私たちの取り組みが、お客様にどう評価されるのか、試される時だ、と伝えました」と田畑氏。

同社は、プリペイドカード5%割引など合法的営業割引は行っているが、もちろん、それだけでは利用者はついてこない。サービス向上をはじめ創業以来60年間に培ったものが背景となっている。価格以外にも利用者離れを防げることの証明でもある。

その田畑氏は、タクシー車両についてつぎのような見方を示した。

「次世代タクシーの開発が進められているが、コンフォートよりも100万円以上高くなると、多くの事業者は新車を導入しにくくなる。トヨタのコンフォートは良くできていて、日本が世界に誇る名車だ。できればマイナーチェンジなどで生産継続できないものでしょうか」

この思いは厳しい状況が続く中、全事業者共通ではないだろうか。燃料価格高騰への対応は喫緊の課題だが、今以上に原価が押し上られ、運賃に影響を及ぼさないためにも、トヨタ・コンフォート、クラウンコンフォート生産継続の声を高め、再度メーカーに要請する必要がある。