過疎 超高齢の紀和町で乗合タクシー

2014年10月1日・第310号

世界遺産登録10周年を迎える熊野古道がある三重県熊野市の山間部・紀和町で10月1日から、乗合タクシーが走り始める。地元のタクシー事業者・熊野第一交通が昨年の市街地区域に続き運行を受託した。

紀伊半島の南端部にある熊野市は人口1万8400人(9月1日現在)。その山間部にある紀和町は、人口は1273人(4月1日現在、本紙一面参照)だが、そのうちの6割近くが65歳以上の超高齢化地域だ。

住民の玄関口まで乗合タクシーが迎えに行かなければならない理由は、本紙一面コラム「乗此処知」で書いた通り。だが、自力で移動することができなくなった高齢者が、みんな施設に入居してしまえば、町に生活に必要な店や施設が整っているにもかかわらず、さらなる人口減少に拍車がかかる。

このことを予見した熊野市は平成20年、紀和地区の住民に聞き取り調査を行った。その結果、男性の8割が運転免許を取得しているが、女性は2割に留まっていることが分かり、危機感を一層募らせたという。

女性の平均寿命は長い。その女性はこのまま行けば外出できず、買い物難民、医療難民になることは目に見えていた。そこで、従来型の停留所まで歩かなければならない福祉バスへの補助からドアツードアサービスができる乗合タクシーの補助に切り替えた。

地方創生が叫ばれる今、紀和町の取り組みは、高齢者が長年生活し馴染んだ地に留まりどう生きるかにスポットをあてた先駆例。タクシーの多様性がクローズアップされる。

<山田>

※10月1日付・旬刊「トラポルト」第310号「正論・対論」より/写真:2013年10月1日に行われた乗合タクシー出発式テープカットの瞬間。現在も三重県熊野市の市街地を運行しており、市の担当者は「利用者は順調に増えている」と話す